∬026 ページ28
雲一つない、青々と突き抜ける空。
風が草をわたっていく音に耳を澄ませてみる。
「あの家庭教師のヒステリックな悲鳴は……聞こえてこないわね」
緑葉の茂る大きな樹の下で、Aは安心して本を開いた。
「あの教師と裁縫するより、何度も読み返したことのある本のほうが全然退屈しないわ」
「……なるほど、サボりってわけか」
サラサラとした声が降ってきた。肩に。
「ディオッ!? どうしてここに!?」
ディオはAの隣に腰をおろす。
「ぼくもここが特等席なんでね。ときどき風にあたりたくなって来るんだ」
「ふーん、そういうことね」
「……と、いうのは半分ウソで――」
「 ? 」
「ずっと君を探してたのさ。これを渡すためにね」
ディオがさし伸べてきたのは、燃えるように赤い一輪の薔薇。
――クラクラしちゃう
ディオ以上に薔薇の似合う男の子なんているのだろうか?
Aは自分に差し向けらた一輪を受け取った。
「ありがとう、すごく綺麗。でも、どうして私に花を?」
「この前のお礼だよ。ぼくの怪我を手当てしてくれただろう?」
「ああ……お礼なんていいのに」
「男が一人で花屋に入ったんだ。もっと喜んでくれてもいいんじゃあないか?」
ディオがわざとらしくコホンと咳払いすると、Aは花びらを散らすように笑った。
「どの花にしようかすごく迷ったよ。どれもみんな美しくて……でも、その花が君に見えたんだ」
「薔薇が――?」
「ああ。君は薔薇によく似ている。品があって、華やかで――大胆に咲くところが君みたいだ」
風が吹く。
頭上の木の葉が一斉にかき鳴らされる音がして、地面に映った光の貝殻も揺れうごく。
「ぼくも薔薇の花は好きだな」
Aの胸に 風がすっと通り抜けていった。
――私は薔薇に似ていて、ディオは薔薇が好きで……
ほんのり温かくなっていく。薔薇を持つ両方の指先が。
「そっか……! 薔薇が好きなのね! 薔薇が……! そっか、そっかぁ!」
くしゃくしゃな笑顔がパッと咲いた――ディオは思わずドキッとする。
Aの満開の笑みは、まるで太陽の下で輝くステンドグラスだ。
ディオは思った――そのムカつくほど純粋な笑顔を割ってしまいたい。そして壊れたカケラをポケットの中に突っ込んで盗み去りたい。
ディオの心に新しく生えだす、真っ黒なツノ。
「ディオが好きなら、私も好きよ」
Aは届かない青空にめいっぱい薔薇を傾けた。
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推しの命は私の命 - ジョナサン空気( ﾟஇωஇﾟ) (10月15日 15時) (
レス) @page43 id: 0046fb2d1c (このIDを非表示/違反報告)
油電(プロフ) - 黒猫歳花さん» コメありがとうございます…!そう言っていただけて嬉しいです(*´ω｀)これからも、胸に刺さるキュンキュンを目指しながらお送りしますッ (2018年5月4日 23時) (レス) id: 95fd139937 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫歳花(プロフ) - はじめまして、この作品を読んでいるとディオにキュンとしっぱなしで楽しいです！これからも頑張ってください(*^▽^*) (2018年5月4日 20時) (レス) id: ae43b29bb1 (このIDを非表示/違反報告)
油電(プロフ) - おバカな傀夢さん» ありがとうございます笑 ディオのキャラが崩壊していないか不安でもあります(汗)お話も中盤にさしかかって参りました…! 引き続きよろしくお願いします(*^-^*) (2018年5月4日 12時) (レス) id: 95fd139937 (このIDを非表示/違反報告)
おバカな傀夢(プロフ) - おおっ！？やっと…やっと気が付いたかッ！ディオ〜！！大好きだ〜！！油電様も大好きです笑 (2018年5月3日 22時) (レス) id: 5ff30031ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：油電 | 作成日時：2018年4月1日 21時
