味見は恋の始まり【時透無一郎】

15.感想 ページ15

「！………お味は、どうでしょうか？」

「…うん。普通においしい」


「よ、良かったぁ〜〜〜！！………実はそれ私が作ったんです！」

「君が？」

「はいっ！私は基本配膳担当なんですけど、メニューの中から日替りで一品任せて貰ってて！！今はお休み中なんですけど、今日のお昼ご飯は私も手伝ったので、その時に無一郎さんの分を取っておいたんです」

「………。」

「あのっ、…私の怪我が治ったらこれからもこうして私が作ったものを一品おまけするので、よかったら感想を聞かせてもらえませんか？」

「何で？」

「私、将来はこの食堂を弟と一緒に継ぎたくて。…だから、おいしい料理を作れるようになりたいんです！それから、………無一郎さんにもっと力が付くものを食べて欲しいから」

「僕が何を食べようと君には関係ないよね？」

「う…」


いつかの時のような物言いに、一瞬言葉に詰まる。


「そ、そう言わずに！味見だと思って、一口で良いので食べて感想を聞かせてください！！私の料理の修行も兼ねているので、この分のお代は取りませんから！！」


勢い任せに継げてきゅっと目をつむる。


少し待っても返事がなくて、ゆっくり片目を開ける。


「………。」

「あの…無一郎さん………？」

「やめよう」

「…え………？」


今、………拒否された？


私だって、良い返事がもらえるとは思っていなかった。

だからといって、こんなにはっきり断られるとも思っていなくて。


少しだけ期待していた私の心は、その期待を抉り取られてきゅぅっと苦しくなる。


「僕は今日の事も直ぐ忘れる。そしたら、また同じことを聞ことになる。……何度も同じやり取りするの、君が疲れるでしょ？」


「…それって……？」


私を気遣って断ったってこと？


「だから、今の話は無しね」

告げて無一郎さんはふろふき大根に手を付けて食べ進めていく。


「………それなら、私がまた小鉢でお料理をお出ししても問題ありませんよね」


だって、今のやり取りの内容を無一郎さんはわすれてしまうのだから。


「何か言った？」

ボソッと呟いた私の言葉を彼が聞き返す。


「いえ、何でもありません」

答えて私はこれから彼に私の作った料理を提供することを決めた。

16.食堂へ復帰→←14.おまけ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す