無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ35)

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　にこりと細められた藤色に、思わず眉を寄せた。

　一期様に部屋を追い出されたあと、私は一人で自身の寝室へと足を進めていた。……正確には一人と一匹で、だ。私が帰ろうと廊下に足を向けた瞬間、すぐにこんのすけが追いついてきたのだ。何やら酷く腹を立てていたので、後で油揚げでもあげておこうと思う。

　寝室に戻っても寝直す気が起きなかったので、仕方なく布団を片付け予定通り風呂場へと向かった。

　ここの本丸に風呂場は一つしかなく、しかも地図を見る限り母屋のほぼど真ん中に配置されている。今後のことを考えて、確保しておかなければ困ると判断した。一人での掃除は骨が折れるだろうが、出来ないこともないだろう。

　そう結論をつけ、発注したクレンザーを片手に母屋へと足を進めていると、少し離れたところに立ち往生している人物──この場合刃物(じんぶつ)といった方がいいのかもしれない──を見つけた。不思議に思って声をかけ、冒頭に至るというわけだ。

　失礼だとは思いながら、その姿をまじまじと見返す。キリスト教のカソックに似た紫色の洋服を羽織り、黄色いストラのようなものを肩にぶら下げていた。胸と二の腕のところに甲冑があるのを見る限り、刀剣男士様で間違いはなさそうだが……。

「……あの、失礼を承知でお尋ねしますが、あなたは……」

「初めまして、へし切長谷部と申します。以後お見知りおきを、俺の新しい主」

　ゆるり、形のいい唇が弧を描く。伏せた顔の動きに合わせて、鈍色の髪が耳から滑り落ちた。

　……へし切長谷部。確か織田信長のところにいた刀の一振りで、黒田家に下げ渡されたことをひどく気にしている……はずだ｡「へし切」と呼ばれることを嫌うのも、その辺にわだかまりがあるからなのだとか。

「こちらこそ初めまして、長谷部様。何か私に御用でしょうか」

「いえ、特に用という程のものは……新しい主が来たということですから、挨拶をと思いまして」

「……新しい主、ですか」

　その言葉に少なからず驚く。随分と簡単に私を受け入れるものだ。本心からそう思っているのか、そういうフリをしているのかは謎だが……

「……つかぬ事をお伺いしますが。あなたは私を、ここの……長谷部様の主として受け入れている。そういった認識でよろしいですか？」

「ええ。相違ありません」

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