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現世の洋服。それも乱の人の身を好んでいたことから察するに、恐らく少女のもの。
とすると、もしかして前任者には、何か人にいえないような趣味でもあったのだろうか。
……。
「ありがとよ、乱。参考になったぜ」
「もういいの?」
「ああ、これだけ聞ければ十分さ」
とりあえず今は、鯰尾の手入れをしよう。見るに、ずいぶんと酷い状態のようだ。骨喰の話によると、どうやら兄弟を庇っての怪我らしい。
それで自身が倒れてしまっては世話ないだろうと、無気力に横たわる兄弟たちに同情する。きっと酷いやるせなさと虚しさを感じたに違いない。何せ、勝手に自分たちを庇ったかと思えば、文句をいう間もなく倒れてしまったのだから……。
「お久しぶりです、薬研兄さん」
背後で聞こえた声に振り向くと、そこには薄く笑みを浮かべた前田が立っていた。「何か用か?」と首を傾げると、前田は少し目を伏せて俺の隣──鯰尾の横に座った。
「鯰尾兄さんを手当てしに来てくれたんですよね。ありがとうございます」
「まあ、立場は違えど兄弟だからな」
「……鯰尾兄さん、目が覚めるでしょうか」
「それはまだ何とも。いち兄が大将の手入れを受け入れてくれれば、一番なんだがなあ」
「……そうですね。けれど、いち兄も不安なんだと思います。ここにいる粟田口の兄弟はみな……乱兄さん以外、一人として折れなかった者はいないんです。僕は五振り目だそうですし、薬研兄さんなんて……もう、九振り目、ですよ」
「……そりゃあ、すごいな」
「でしょう。……ねえ薬研兄さん、お願いですから、審神者のところへなんか行かないでください。僕、もう嫌なんです。薬研兄さんが折れるのを見るのは。後生ですから、もう……」
……恐らく。
前田は、幾人かの「薬研藤四郎」を、見送ってきたのだろう。目の前で為す術なく折れていく様を、見てきたのだろう。
その「薬研藤四郎」は、俺っちの知らない「薬研藤四郎」だ。俺っちであって、俺っちじゃない存在。前田も、それをわかっている。わかっていて、でもきっと、いてもたってもいられなくなって、俺っちに話しかけたのだ。
それをいったところで、俺っちにも、前田にも、大将にも、どうすることも出来ないことを、わかっていて。けれど、いった。
「……前田。悪いがそれは、出来ねえよ」
どうしようもなく、哀しいと思った。
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フキ(プロフ) - 好きです!続きがとっても気になります!! (2022年6月15日 23時) (レス) id: 171aa22f7a (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - あんこもちさん» アーーッそうでした!万死……、 すぐに修正します!ありがとうございました! (2019年12月7日 12時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
あんこもち(プロフ) - 鯰尾と骨喰は元大太刀ではなく薙刀では? (2019年12月7日 11時) (レス) id: 1c5e807086 (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - ありがとうございます!頑張ります´ω`* (2019年8月2日 13時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
0dh38w152yz4d3p(プロフ) - とっても面白いです!更新楽しみにしてます(*^^*) (2019年7月31日 16時) (レス) id: b48a4a1bf4 (このIDを非表示/違反報告)
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