鯨波の声 3 【 練 紅炎 】

49話 ページ49

「ぼく、やめてっていったんだ・・・」
「ん？」

聞き逃してしまいそうな、ぽつとした声だった。

「せんそう。やめてっておねがいしたんだ」
「練 紅炎か？」

意外すぎる告白にシャルルカンは思わず立ち止まった。
こんな子供が、誰も口に出すことが出来なかった一言を言った。
それでも生きて、自由に動けている事実に驚く。

「・・・ぼくのおねがい、かなうかなぁ」
「アラン・・・」

しょぼくれたアランを励(はげ)まそうと、シャルルカンがしゃがみこんだその時だ。
アランは何かに気がついたように、どこか遠く一点をじっと見た。

「・・・Aちゃん・・・？」

慌てたように周囲を見回し、アランの名を呼ぶ、褐色肌の女。
じわっっと、アランの目に涙が滲(にじ)んだ。

「アラン君！アラン君どこ！？アラン君！！」
「Aちゃん」
「あ？」
「Aちゃぁああああああん！！！」
「アラン君！！！」

シャルルカンの手を振りほどき、アランは一心不乱(いっしんふらん)に駆け出した。

待っていた。
ずっと待っていた。
必ずまた会えると信じていた。


アランを受け止めるように両手を広げたAの胸の中に飛び込むと、ぎゅうっと暖かな手がアランを包み込んだ。

「うわぁあああああん！あああああああん！！！！Aちゃぁあああああん！！」

溜まりに溜まっていたものが、爆発したようにアランは大きな泣き声を上げた。
それを受け止めるように、Aの目からも涙が溢れるのをアランは感じた。

「ごめんね。アラン君。すぐ、お家に帰してあげるからね。ごめんね。ごめんね」
「うえぇええん！ぁああああん！」

わんわん泣き声をあげるアランを周囲が遠巻きに通り過ぎる中、シャルルカンはゆっくりと2人に近付いた。

「Aか？」
信じられない思いで、シャルルカンはその名を呼んだ。

「シャルがアラン君を見ててくれてたって聞いて・・・。ありがとう。シャル」

よいしょっとアランを抱き上げると、人の波をかき分けてこちらに向かってくる一団が目に入った。

「閣下！」
「セト。こっちこっち」
「合流できましたか。何よりです」

猿のようにAにしがみついている少年を見てセトは笑った。
Aの背中を追いかけてばかりいる自分も実はこの少年とあまり違いがない。

ためらうことなく、セトはAの足元に膝をついた。
そんな事をするな。とAは笑うのだろうが、構わなかった。

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