鯨波の声 3 【 練 紅炎 】

36話 ページ36

＊

一瞬、何を言われているのかうまく飲み込めなかった。

さらわれたはずのアラン君がシンドリアで目撃された？

それはつまり・・・

「シンドリアって・・・、まさか」
「君の行方を追うものが、アランをさらったと考えるのが自然だろうね。アランは君に近しい。アランが拐(さら)われたと聞けば、君が姿を現すと考えたのかもしれない」



「やり過ぎだね」



「そういうと思った・・・。」
やれやれ、と諦めた様子だが、自分に都合が悪いことでも隠さずにきちんと話してくれるところがシャロットだ。

次に何を言われるのか予想がついているらしく、シャロットはベビーベッドですやすやと眠りにつくコレットに視線を移した。

本当は何度も思った。
コレットは成長する。

他人と一切接触させず、いつまでもここに隠れ住むわけにはいかない。
かと言って、友人の1人も作れない逃亡生活なんて以ての外だ。

だったら、平凡な農夫の家にでも里子に出したほうが良いのではないだろうか。
伸びやかに、真っ当な心を持つ人間に育って欲しい。

この子が成長し、身分を望むなら、それもいい。
喜んで力を貸そう。
けれど、歴史が証明する通り、英雄の子が親と同じように武を好むわけでもないし、志しを持った王に成長するとも限らない。

自分がそうしてきたように、この子にはこの子の好きな人生を歩んで欲しい。

そう思っている心に嘘はない。
だけど。
だけど・・・！


「君。今自分がどういう状況かわかっているのかい？君はもう、第一線から身を引いた人間だ。半年前の君から見たら今の君は一般市民と同じだよ」
「その一般市民を、人質まで取って追いかけ回してるのはどこのどいつさ。」

かくれんぼは終わりだ。
これからの為にも、ここでケリを付ける。
それが最善だ。

「今回は僕がコレットを預かるよ」
「え・・・。え"！！？」
「なんだい？その反応は。シッターを雇(やと)えば済む話さ。アテはある。僕が面倒をみるわけがないだろう」

で、デスよねー。
あー、ビックリした。

「まあ、コレットには僕(パパ)がいれば大丈夫さ」
「は？」

なに、いきなり。

な、何事！？

「コレット。ママはコレットの事を里子に出そうか悩んでいるんだよ。実におバカさんの思考だと思わないかい？どうせ、メソメソいじいじしながら、君の様子を見に行くのにね」

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