22話 その4 ページ4
未亡人は苦しそうに口元を押さえた。
まるで、胸に秘めた苦しみを外に出さないようにひたすら耐えるような仕草だった。
それを、そっと外してやる。
「良いのです。もういいんです。」
背中を撫でてやると、堪え切れなくなったような声が漏れた
「田畑を荒らされ、罪なき人々が殺されました。」
「はい」
ポロリと零れた弱音は、今まで耐えていた感情が崩壊する引き金になったようで、ボロボロボロ涙がこぼれ始めた。
「夫は、夫は民達を守ろうとして・・・」
崩れ落ちるようにAの膝に泣きついた体をAの手が何度も滑る。
「はい」
それ以上は言葉にならなかったのだろう。声を殺し、泣き続ける未亡人の体を撫でながら、Aはじっと『煌』と記された旗を見ていた。
「顔をおあげなさいませ」
はっきりとしたAに女は体を震わせた。
「すでに貴方の旦那様はそちらの殿方でいらっしゃる。その方以上に情をかける方がいらっしゃってはいけません」
顔を上げた女は涙を拭き、少し恥じたような顔をしながらもしっかりと頷いた。
「はい。申し訳ございませんでした」
「大丈夫です。大丈夫ですよ。」
これから慣れない王都暮らし。
頼れる知人も少なく、心細い日々が続くのだろう。
Aは、にっこりと笑った。
「私でよければ、何かと頼りにして下さい。」
「あ、ありがとうございます!」
「元は市井の出です。お台所の事でもお役に立てることもありましょう。」
冗談めかして、そう言うと、未亡人も僅かに笑った。
「この先、きっと良きことがございます。あきらめてはなりません。」
ああ。と、Aは思った。
この国の誰もが鬼神のごとく、強い男を求めている。誰にも侵されず、安心して田畑を耕し、家に明かりを灯せる暮らしを守ってくれる男を。
これでは、もう、私にはこの人は止められない。
疑うことすら許されない。
今日一日で紅炎を求める、どれだけの声を聞いただろう。
切望する声を聞いたのだろう。
宮中の思惑など彼らには関係ない。
「大丈夫です。我々には『炎帝』が付いていらっしゃるのですから。」
晴れやかにそう言うと、歓喜余ったように男女は紅炎に頭を下げた。
気高く座につく紅炎の側で、紅明が満足気にこちらを見ていた。
人心の掌握に手を貸したつもりはない。
ただ、強く思った。
貴方はこれほどまでに。
これほどまでに、人々の希望そのものなのだ。と。
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白夜 - ショ、ショタだ (2014年12月7日 21時) (レス) id: c4aa6ec47d (このIDを非表示/違反報告)
飛燕(プロフ) - 白夜さん» え!登場しないから!?うん!でも、ほら!道なきの方で活躍してるから (2014年11月17日 20時) (レス) id: ff86b3b758 (このIDを非表示/違反報告)
白夜 - こーくんかわいそう・・・ (2014年11月17日 19時) (レス) id: 1769d2b610 (このIDを非表示/違反報告)
飛燕(プロフ) - 白夜さん» 更新が遅れていて大変申しわけありません。本編再開です。紅炎は一切出てきませんが今後に関わってくるお話です。 (2014年11月16日 20時) (レス) id: da72338801 (このIDを非表示/違反報告)
白夜 - ありがとうございます! 思わず叫んでしました! (2014年11月13日 16時) (レス) id: 1769d2b610 (このIDを非表示/違反報告)
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