鯨波の声 9

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7話ページ7

こくこく、細い首が折れてしまうのではないかと思うほど、アンジェは頷いた。

「あ！あと、助っ人も頼んであるぞ」

ほらっと青秀が示した先には、清楚(せいそ)な女性が優しい笑顔を見せて立っていた。
年は紅輝と変らないだろう。黒い艶やかな髪は後ろで束ねられ、化粧も最小限のものだが、愛らしい。

「翠と申します」

頭を下げる仕草さえ洗練(せんれん)されている。

「アラン付きの侍女だ。」
「アランの！？」

こんな人がアランの！？

「今は章妃様付きと兼任(けんにん)になってるがな。主人は違うが、侍女の中で顔見知りがいると心強いだろ。」
「私も城に上がったばかりの頃は右も左もわからず、叱られてばかりでした。不安も多いでしょうが、慣れるまでが勝負です。一緒に頑張りましょうね」
「はい！」

立ち話もなんだからと、城の東屋(あずまや)で茶をすることになった。
本来、侍女であるアンジェは座れる立場ではないが、今日ばかりはといったところだった。

「あ、あの。早速ですが、これ、姉さんからです。紅輝様の意見が聞きたいと」
「ん？なに？」

一通の手紙は、『紅輝へ』とだけ書かれている。

開けたら最後。
『アンタ！ウチの可愛い妹を弄(もてあそ)んだらどうなるかわかってるんでしょうね！』とか変な言いがかりが書かれていそうだ。

開かないまま机の奥にしまってしまいたい。

「ひと月後、シンドリア建国記念パーティーに姉さんが呼ばれたんです。」
「アンナが！？どうして！」
「元々、姉さんはシンドバッド王と親しくしてました。それに加え、アランはシンドバッド王と友人の立場で・・・。招待状自体は家族全員宛になっています。」

再び眷族達が、くらっとしてくるような情報が飛び出してきた。
シンドバッドと友人？
なんだそれは。

急いで手紙に目を通すと、アンジェが言う通りの内容が書かれてある。

『紅輝にも迷惑をかけるかもしれないから先に伝えておく』と。

「普通なら丁重に断るところですけど、着ていく服や船の手配。ありとあらゆるものはシンドリアから提供すると言われて・・・」
「あのー・・・。いいか？」

手を挙げたのは、青秀である。

「アンジェはシンドバッドと親しくなかったのか？」
「うん。見るからに胡散臭(うさんくさ)かったし、ギラギラしてるし。ちなみに、姉さんはイケメン好きで、アランは面白いもの好きだよ。」

ああ。という空気が流れた。
なんてわかりやすい姉弟。