鯨波の声 9

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15話ページ15

アラジンが引っかかっているところもそこだ。

シンドバッドに操られていたとはいえ、自ら兄達を窮地(きゅうち)に追いやったと知った紅玉は政務を放棄(ほうき)し、有能な官吏たちは、全て紅炎達の息がかかった官吏であった為、幽閉され、バルバッドは大混乱に陥(おちい)った。

それを見かねた紅輝は、官吏や紅炎眷族達を全て解放し、反乱寸前だったバルバッドを救ったのだ。

現在はその温和な性格から現地民達への理解を示し、協力関係を進めているという。容姿端麗(ようしたんれい)なことも助けとなり、非常に人気が高い人物だと言う。

そんな人物を罰するのか。
罰した場合、白龍が悪者になってしまうのではないかというのが、アラジン、モルジアナの懸念だった。

「理由はどうあれ、紅輝が勅命(ちょくめい)に逆らったことは確かです。何かしらの罰を与えなければ示しがつきません」

キッパリと白龍が言い切った時だ。
なにやら前方にほうが騒がしい。

「どうしたんだろう」
「何か騒がしいですね。私、ちょっと見てきます」

モルジアナが軽々と前方に向かって跳躍(ちょうやく)していった。

煌帝国列、前方。

煌帝国の兵士達に囲まれていたのは、アバスとアギルだった。
刀や槍を突きつけられているというのに、「まずった～」とか言いながら、全く緊張感がない。

「だからさぁ、そういうのやめようぜ」
「祝いの日に血を流すのは歓迎されない。そのくらいもわからないのか」

やれやれと言うように2人が兵士達を宥(なだ)めているのには理由がある。

本日、各国の列を見る為に沿道(えんどう)には多くの人々が集まっていた。

街に繰り出していた2人はそんなことに全く関心もなく、シンドリアの街を満喫(まんきつ)していたのだが、とある人物を発見してしまったことで事態は一変した。

すれ違いざまに香る強い酒の臭い。
ブツブツと1人ごとを言う姿は明らかに場の雰囲気とそぐわなかった。

嫌な予感がして、視線で男の行動を観察していると、路地に落ちていた大きな石を手に取ったのだ。

「黙れ。陛下の御輿に石を投げようとするなど死罪は免(まぬが)れん！！」

そう、投げようとしただけで、実際に男は石を投げつけてなどいない。
未然に2人がそれを防いだのだが、目ざとく見つかってしまったというわけだ。

「ほら、お前も謝れよ。理由はどうであれ、石を投げるなんて当たりどころが悪ければ死んじまうんだぞ」