9話 ページ9
「アランが家族を最後に見たのは、傷付き倒れ命の危険さえある。そういう状況だ。いくら口で無事だと伝えられても会いたいと願うのは自然の事だと思うよ」
意外なほど思いやりのある言葉だった。
横暴だと思っていたこの王も、実は家族に特別思いを抱いているとハルは察していた。
トマトを
触るとぷるんとした弾力がある卵にナイフを入れると、花が咲いたように、半熟卵がチキンライスの上に広がった。
「Aちゃんのおむらいすとおんなじだ!」
「僕が教えたんだから当然だろう」
「しゃろっとがせんせーなの!?」
「ほら、冷めるよ。」
スプーンでそれを口に運ぶと、程よい酸味を卵がマイルドに調和し、子供が食べて丁度いい味付けに整えられていた。
アランは幸せそうな顔で、ほっぺを押さえる。
「おいし〜い!ほっぺがおちちゃう!」
「ちゃんと野菜も食べるんだよ」
「うん!」
もぐもぐ食べ進めるアランだったが、ふと、自分しかいない食卓に
「アラン。両親が恋しいかい?」
「いいんだ。ぼく、がまんできるもん。」
それでも食べ続けるのだから相当空腹だったらしい。
「君は1度アルガン島にお戻り」
「いいの!?」
ぱっと顔を上げたアランの両目が不安そうに揺れている。
「構わないよ。用があるときは僕が出向くよ」
ハルの背中に乗って、アランはアルガン島に
灯りのない真っ暗な海に浮かぶ島は小さくぽかっとした印象しかない。
足音もなく自宅近くの森の中に降りたハルは「本当にこちらで宜しいんですか?」と声をかけた。
「うん。あとは、あるいていくから、だいじょーぶ。」
久しぶりに自宅に帰れるとあって、アランは少し緊張気味だ。
もう、帰っていいよ、そう言おうと振り返ると、肩を落としているハルと目があった。
「・・・いっしょにいきたいの?」
「はい」
いつ死んでしまうかわからない。そんな状況から、ここまで回復したアランと誰が離れたいものか。
でも、今の自分の姿は人間の姿とは大きく異なる。
人前に出て行っては、驚かせてしまうこともハルは理解していた。
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