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29話 ページ29

「聞いてください」

狼狽(うろた)える紅玉の手を、落ち着かせるように、ぎゅっと紅輝が握った。
痛いほど紅玉が紅輝を守ろうとしていることが伝わってくる。

それを無視してでも、紅輝は進まなくてはいけない。

「私は、練 白雄と章妃の息子。間違いなく、白徳帝の血筋です。白龍殿が血筋をかかげるのであれば、私も同じです。実父が太子であった私の方が、白龍殿より継承権は高い。」

紅玉は耳を疑った。
紅輝はこれまで、生みの父よりも育ての親こそ実の親。という発言を繰り返していた。
それが一転、実父の身分こそが自分の立場だと言い切った。

「紅玉姫、私はバルバッドの権利を移譲(いじょう)いただきたく申し上げる。」

紅玉が口を開きかけた時だ。
突然、焦点が合わなくなり、ガクガクと痙攣(けいれん)を始めた。

「姫?」
「に・・・にげ・・・!」

突如(とつじょ)、ガクッと、気絶した紅玉。
思わず、紅輝がその体を支えようとすると、ぱしっと軽い音を立ててその手が振り払われた。

「お・・・、おや。おかしいな。父親とは違い、争い事を好まぬ人物と聞いていたが、違ったのかな?」

ぱちっと目を開き、彼女らしからぬ自信に満ちた笑顔が浮かぶ。
傲慢(ごうまん)な態度で、悠々(ゆうゆう)と椅子に座ったのを紅輝は淡々と見ていた。

「貴方がシンドバッド王ですか」
「いかにも。」
「貴方のおかげで、完璧に保たれていたバルバッドの治世はメチャクチャです。」
「どういう意味かな?」

不敵なシンドバッドに、紅輝も無表情だ。

「人が悪い。父上の重鎮(じゅうちん)程、国の中枢(ちゅうすう)(にな)っていたものばかり。彼らを一斉(いっせい)投獄(とうごく)すれば、国が回らなくなることくらい、子供だってわかります。」

だからこそ、紅輝は一つの可能性に気がついた。
シンドバッドの狙いはわざと暴動を起こし、煌帝国をバルバッドから撤退(てったい)させるつもりなのかもしれない。

けれど、そんなことになれば、紅炎が命がけで守ったもの全てを、メチャクチャにする泥試合が始まる。

「このままでは、城下の民に要らぬ負担がかかります。よって、私が後を(にな)う権利を主張申し上げる」
「と、言うのは都合のいい、言い訳で。投獄した眷族達を解放し、練 紅炎を救出しようという算段(さんだん)かな?」

ぶちっと何かがキレる音がした。

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作者名:飛燕 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年7月29日 10時

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