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それから私は、またポアロに通うようになった。
「いらっしゃい、Aさん」
8割の確率で安室さんはそこにいる。
組織の仕事、暇なのかな。
私はもともとポアロが好きだったから、何も気にせずまた来れるようになった事が素直に嬉しかった。
「今日も、もうすぐ終わるので待っていてくださいね」
女子高生が悲鳴を上げそうなウインクを繰り出されるが、私はもう慣れたものだ。
最近は夜この時間にポアロで時間を過ごし、ちょうど安室さんのシフトが終わる頃なのでそれを待って彼の車で帰っている。
彼の本当の家に行ったらいつも朝帰りだ。
それがもう習慣になっていた。
「…そう言えば、あの藤川俊とかいう男の事ですが」
『…はい』
「以前Aさんが悩まされていたストーカーだったことが分かりました」
『…』
「しかも彼、警察官だったみたいです」
彼の愛車の助手席で、あの嫌な記憶を思い出す。
私に気づかれない尾行術も鍛えられた体も合点がいった。
まあ、捕まったのなら一件落着なので喜ばしい事なのだが。
「…でも、気をつけてくださいね」
『何をです?』
「バーに行くのは構いませんが、1人で夜道を帰ったり、知らない男性に気を許したりするのはいただけませんよ」
『…反省点は自分で分かってますよ』
子供のように叱られて、私は少しむっとした。
『でも安室さんに友人関係までとやかく言われる筋合いはないです』
私はふん、とそっぽを向いた。
彼は私の言葉に少し困惑したようだった。
「…そういうことに口を出されるのは嫌いですか」
『…そうですね』
それっきり、彼は考え込むように黙り込んで、結局マンションに辿り着くまで喋らなかった。
「それじゃあ、またポアロで待ってますよ」
朝、彼はいつもの様にさわやかにそう言い残して去って行った。
彼の車のエンジン音が遠ざかるのを聞きながら、私は部屋の鍵を開ける。
『いてて…』
腰の痛みと共に、昨日の夜を思い出して顔に熱が集まる。彼の体力はいつだって底なしだ。
それにしても、と、大学の学食を食べながら私は1人考えた。
私と安室さんのこの不思議な関係は何だろう?
私たちは付き合っていない。それは明確だ。
しかし恋人のように会って愛を囁いて一夜を共にして……強いて名前を付けるとしたら恋人ごっこ、とでも言うべきか。
こんな事を相談できる人は限られる。
私は乗り気ではなかったが、携帯でメッセージを送信した。
A今日空いてる?
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ピカチュウ - 面白いです!!安室が、目を覚まさないまま終わりは嫌です。だから、更新頑張ってください!!! (2020年9月15日 6時) (レス) id: 59772e939d (このIDを非表示/違反報告)
まな(プロフ) - 続き待ってます! (2020年8月20日 11時) (レス) id: b4debc2124 (このIDを非表示/違反報告)
おもち(プロフ) - 続きが気になるところで終わらせますね!?更新頑張ってください! (2020年6月5日 11時) (レス) id: da120451b3 (このIDを非表示/違反報告)
MONACA(プロフ) - 続きはないんですか??? (2020年4月13日 14時) (レス) id: 21fce29ea8 (このIDを非表示/違反報告)
空白@吹部@Tp@不定期浮上(プロフ) - こういうラストってありなんですか、、、!?(混乱) (2020年4月11日 7時) (レス) id: 16e27b9642 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作成日時:2020年1月29日 14時