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Aの真摯な眼差しに負けたのだろうか。榊は「貴方様がそうおっしゃるなら」と折れて荷物を渡した。
「ありがとう、榊」
にこりと微笑むと榊は「いえ」と微笑を浮かべた。滅多に微笑むことの無い榊の笑みにAは頬を緩める。
「榊、貴方笑った方が素敵よ」
「…そうですか」
ふい、と逸らしてしまった榊の表情をもう覗くことは出来ない。あらあらと残念がるAに、榊はうんともすんとも言わなかった。
藤の香が匂う屋敷に辿りつくと榊は「それでは」とお辞儀をする。何処までも律儀な榊に笑みを零しながらAは懐の匂い袋をその手に握らせる。
「いつもありがとう、感謝しているわ」
これを持って、決して怪我のないよう。と付け加えると榊は「感謝致します」と背筋を正してまた微笑んだ。
ひらひらと手を振って別れ、屋敷の敷居をまたごうと、足を踏み出す──────。
「A」
すると後ろから涼しい声に名を呼ばれた。振り向くとそこには本部から戻ったばかりの義勇の姿があった。
「義勇様!おかえりなさいませ」
子供のように頬を綻ばせて駆け寄ると義勇はAの白い肌にそっと手を添えた。
「義勇様…?」
「…」
青い瞳がじっと目を見つめる。義勇の瞳は不思議だった。見つめられている時、Aは心がぼんやりするような感覚になる。
その瞳がなにを語るのか分からず、その瞳に見蕩れていると「楽しかったか」と口を開いた。
「えぇ、楽しかったです。今日も奥様方とお茶を致しました」
「そうか、良かったな」
さ、と義勇がAの土産を手に持った。肩に手を添えて屋敷へと促す義勇にAは眉を下げて身体を離した。
「…義勇様、私、貴方が愛してくださっているのは分かります。
ですけれど、甘やかされていては駄目です。私、心苦しいのです」
正直に自分の心のうちを話すと義勇は「誰かに何か言われたのか」とほんの少し眉を動かした。
「いえ、違います。私の気持ちです」
「…俺はお前を大切にしたい。だからこその気遣いなんだ」
ですが、と口を開こうとすると口付けられてしまう。熱い唇に夜を思い出してほう、と惚けてしまい身体を委ねる。
「…分かってくれるか?」
そんな口付けをされて、その瞳で見つめられたら何も口に出すことなんて出来ない。
「…はい」とどこか夢心地で呟くと義勇はAを腕の中へ閉じ込めた。
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あろま(プロフ) - 謎の桃さん» コメントありがとうございます!好きと言って頂けて嬉しいです!続編の方も是非ごらんください! (2020年1月5日 17時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
謎の桃 - ぐっ…好きです…(死 (2020年1月3日 11時) (レス) id: 54222cb971 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - あろまさん» 分かりました。大丈夫です。 (2019年11月1日 9時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 零奈さん» リクエストありがとうございます!実弥ですね!実弥らしいお話ですね…!精一杯書きます! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 美桜さん» リクエストありがとうございます!煉獄さんのリクエスト嬉しいです!ですがすみません、夢主が柱という設定を普通の一般隊士にしたいです。ご了承ください…! (2019年10月31日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月25日 17時