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雨と鬼 ページ3

その言葉に杏寿郎は竹刀を拭く手を止め、女を見上げた。10歳の杏寿郎でも、その言葉に違和感を感じるのは当たり前だった。



「俺は僕じゃありません。煉獄杏寿郎という者です」


「あ、ごめんね。あの、そうじゃなくて…」



オロオロとする女をじっと見詰める。見えている、見えているに決まっているじゃないか。だから話し掛けたんだ。



「見えています!だから会話しているのです」



これまた杏寿郎が元気よく答えると女は桜色の目を大きく開いて「そう、そうなの…」とうわ言のように繰り返す。






「私の"血鬼術"が破られるなんて…」


「血鬼術?」






ケッキジュツ、昔から伝わる煉獄家の書物にそんな事が書いてあった。それは、それはでも──────。









「私ねぇ、鬼なの」









女が口を開いた途端、ざぁ、と雨の混じった強い風が後ろから吹いた。


風に促されて女を見上げると──────女は酷く悲しげに微笑んでいた。




「鬼なのよ──────杏寿郎くん」









鬼、それは古来から存在していた人間の天敵であり、確か絶命したはず。


杏寿郎は書物や父から聞いた話を思い出し、大きく首を振る。


「鬼は殲滅したと書物に読みました!俺は信じません」


ハッキリとした杏寿郎の物言いに女は目を瞬かせた後、小さく笑みを零した。




「そうね、そうだよね…。でも私は鬼なの。人じゃない。


だからもうずっと、ずうっとあの人を待ってる」




"あの人"


その言葉と共に虚ろげな桜色の瞳に初めて明かりが灯ったようだった。





「元号が変わって、街並みが変わって、人々が年老いていき、また新たな命が生まれる間、ずっとここで…」


「鬼ならばどうして俺を食べたいのですか?」





杏寿郎の瞳孔開いた大きな目が女を見詰める。すると女は杏寿郎の純粋な疑問が、純粋故に笑ってしまった。



「私、お腹空かないの、全然。


あの人の事を思うだけで、胸がいっぱいになるの。それだけで充分」



それまで沈んでいた表情がみるみるうちに優しいものになっていく。杏寿郎はその表情に見覚えがあった。両親が子供たちに向ける表情。父と母が見つめ合う時の表情と同じである。


「その方はいついらっしゃるのですか?」


杏寿郎は純粋に興味を持った。この不思議な雰囲気の女の事がもっと知りたい、と。強くなるために稽古をするときと同じような感覚が杏寿郎を動かす。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 鬼滅 , 煉獄杏寿郎   
作品ジャンル:アニメ
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あろま(プロフ) - ネコ2世さん» コメントありがとうございます!コメント遅くなってすみませんでした…!今までで1番と言って頂けて嬉しいです!こちらこそ読んで下さり本当にありがとうございました! (2019年11月15日 18時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ2世 - 完結おめでとうございます!最後、主人公と煉獄さんで現世で再会出来て本当に良かったです!今まで様々な夢小説を読んできましたが、一番好きな作品です!書いてくださりありがとうございます! (2019年11月2日 20時) (レス) id: 6d89e33ad2 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - ukiさん» コメントありがとうございます…!丁寧で素敵なお褒めの言葉光栄です…!そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからもよりよい作品が作れるように尽力していきます! (2019年10月25日 19時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)
uki(プロフ) - 完結おめでとうございます。ただただ、最高の一言につきます。他作品も読ませて頂いておりますが、あろま様の文面が繊細で自然と涙が溢れておりました。自分自身が清くなれた気がします。これからも応援させて頂きます。ありがとうございました。 (2019年10月25日 1時) (レス) id: b46c65ea42 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - 仍さん» コメントありがとうございます!読んで頂いた上に素敵なコメント嬉しいです…!私もこのコメントに幸せな気持ちになってます…!これからも頑張ります! (2019年10月20日 22時) (レス) id: 3a55b14ac0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あろま | 作成日時:2019年9月3日 16時

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