雨傘の下で君を待つ【煉獄杏寿郎】

雨と雨傘女 ページ2

時は大正から移り変わり──────昭和。




長年、人々の生命と平和の危機をもたらしてきた鬼は鬼殺隊によってその姿を消し、その悪鬼を狩るべく活躍した鬼殺隊は最早伝説となり、後世の人々へ語り継がれていった。







しとしとしとしと雨の降る中、竹刀を腰に走る少年の姿があった。



──────その名を、煉獄杏寿郎という。



その少年は鬼殺隊の中でも実力と功績を持つ"柱"と呼ばれる9人の剣士の中で"炎柱"を代々務めていた煉獄家の末裔であった。


そして、その代々の炎柱の中で20歳という若さでその命を賭した煉獄杏寿郎と同じ名前を受け継いだ少年であった。


稽古の帰り道、降り注ぐ雨を阻む術も無く、杏寿郎はただひたすらに走っていた。


分かれ道に差し掛かった杏寿郎は迷わずいつもとは異なる道──────左を選んだ。


左の道は草木が多く、熊も偶に出るという事から両親に「通らないように」と耳がタコになるほど聞かされていた杏寿郎であったが、左の道の方が近道である事を知っていた。


ぬかるむ地面に足を滑らせないように集中して走っていると、ある家の前に来た。



「…初めて見る民家だ」



草木が生い茂った庭を見る限り、誰も住んでいないような、小さな民家。


杏寿郎がくるり、右を向くとそこには番傘をさした人影があった。


古ぼけた番傘を手に、韓紅色の着物を見に纏い、長い艶やかな髪の毛を簪で結った女が右──────ずっと続く道を見つめて佇んでいた。


杏寿郎は吸い寄せられるように足を動かし、女の傍で立ち止まった。





「韓紅色の着物を召した女性の方！」





杏寿郎が腹の底から大きな声を出すと、女はビクリと肩を揺らし、ぼんやりと道を見つめていた桜色の瞳を向けた。


それまで虚ろげだった瞳はパッと見開かれ、大きく杏寿郎を見詰める。


女が紅をひいた唇を開く前に、杏寿郎は「少しの間雨宿りをさせて頂けないでしょうか！」と背筋を伸ばして問いかける。


すると女は「え、えぇ、どうぞ」と戸惑いながら返事をした。





「失礼します、感謝致します！」




『誰にでも礼儀正しくするのですよ』と母に言われた通り、杏寿郎は礼をして傘の下に入った。


閉まっていた手布で濡れてしまった竹刀を拭き始める杏寿郎をじっと見詰め、女は恐る恐る口を開いた。









「…僕、私の事が見えるの?」

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