来馬先輩の妹に恋する皆様方のお話 6 【WT】

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「…あーらら」




主役が消えちまった。


瞬く間に静寂となったこの空間にそう響かせたのは、紛れもないこの男、米屋だった。







「ぁ…」





俺には訳が分からなかった。




いきなり届いた連絡の通りに従うまま。

そしてその男からの"良いことがあるかも"、…なんて朝でしか触れない星座占いのお決まりの言葉に、ほんの少し期待しただけだった。







だから、余計分からなかった。



アレ以来何故か話す機会もなくなった、顔を見ることさえもなくなってしまった相手がこの空間に閉じ込められていて、


それであの独特な香りにぐらぐらと揺れ始めていたら、いつの間にか目の前には何処かの有名なお話の如く王子が姫を攫うシーンが映っていて、




やっぱり、分からなくて。






「え、あ……出水先輩…？」





それで、…それで。



姫は何かを見て酷く泣きそうになって、


隣にいる…いや今はもう俺に見下ろされているこの男がずっと愉しそうに笑っていて、









それで、Aさんは…










「…ッおい、出水…！」



「お、落ち着いてください…！」






ぐらり、ぐらり。


何かがより一層揺れている頭の中とは反対に、目の前のこの、物語でいう悪役の男の襟を固く握りしめている俺の手。







「なんだよ、弾バカ」






憤怒からと言ってもいいのか。


ギリギリとそれらしき音が自分の口内で虚しくも生まれているのが分かる。





その憤怒は誰から来たものか。


考えれば考えるほどやっぱり虚しく、痛く、それこそ"自身"という小さな空間に鳴り響いているのが分かる。







「…ッのせいで…！」





何なんだよ、本当に。



分からないことは分からないのに、一番分かりたくないことが何で、こうも。







「…そーだよ、」






酷く、噎せ返る。






「お前のせいだよ、出水」






仕組まれた毒が回ったかのように。

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