来馬先輩の妹に恋する皆様方のお話 6 【WT】

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案外でも何でもないけど、狡い人だと思った。

今この瞬間机を挟んで差し向かい、お互いがお互いの立場を理解した上で指でなぞったりそれを見たり。それこそ白と黒の世界の様に。


それなのにこの人が俺に向ける真っ直ぐな目は何処かその先、俺が立ち入ってはいけない領域を見ている。


…いや、それだけならまだいいんだ。

俺が未だ事実上子供であるのを逆手に『大人は汚い、だけど俺は違う』を訴えて、更にこの組織内でその汚い大人が存在している、と小学生の様に誰かを示唆して非難している。
結局は二宮さんもまだってことなんだろう、きっと。






「聞かないのか」


「…何をですか？」


「そういう大人が誰なのか」


「…聞いたところで俺は餓鬼なので別に…何も」


「そうか」





試さないでよ。嬉しそうにしないでよ。本当、狡い人。






「…俺は自分自身より周りの方が大事だ」





だから本当はこんな戯言聞きたくないし、聞いたらまた揺らいでしまいそうで怖い。





「それ以上に、身内の仲にヒビを入れる大人を許さない」





だけど俺がこの空間にいる以上、この立場でいる以上、俺が一番信じなければいけない人は二宮さんな訳で。
逆に二宮さんがさっき示唆した人には軽蔑の眼差しを与えなければいけない、勿論俺の意志とは関係なく。

それでも。





「だから辻、俺はもし犬飼と同じだったとして」


「…分かってます、もう疑ってないです」


「いや言わせろ。そうじゃないとお前の為にならない」


「……ッ」





机に添えるよう置かれていた二宮さんの手がまた少しだけ宙に浮くと、次はその机のくぼみを爪でガリッと音を立てて引っ掻いた。

途端に俺の頭にあった塗り固められた概念なんか一瞬にして粉々に消え去って、その代わりなのか、今目の前に座っている二宮さんという人物の情報が思い出として襲いかかってくる。


…ああ、やっぱり俺は単純なんだ。






「何があっても、俺はあいつに恋愛感情を抱かない」





こんな一言でポロッと目からこぼれ落ちる涙も、それを呆れたように優しくほほ笑みかける二宮さんも、全部。俺が子供だからだって言われてるみたいで恥ずかしくなる、嫌になるけど。







「…ッ飯の連絡、早く来るといいですね」






それに甘えるのが礼儀なんじゃないかって、子供ながらに思う。

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