来馬先輩の妹に恋する皆様方のお話 6 【WT】

293(11/20 そろそろ本格的いざこざ始まります) ページ43

「…二宮さんは、じゃあ、」


「俺は餓鬼の事情なんぞ知らない」





それ以上は言わせてもらえなかった。


一回りとはいかないものの俺よりも大きい掌でグッと上から頭を押される。

その弾みと言っていいのか、思ってた以上に力が入らない抜け殻の様な俺の体は、いとも簡単に元いた椅子の上へと再び戻る形となった。






「…悪かった」




座ってしまえばもう何も頑張る必要なんてなかった。ただ二宮さんの声を追うように顔を上げるだけで、俺は満足だ。





「…いえ、俺が多分」

「いや、勘違いさせたことに俺は謝っている」




それと、みっともない姿を見せて。

そう一言だけ二宮さんは俺に残すと、コツコツと革靴の音を立てて机を挟んだ向かいの席へと座り、結局はお互いがこの部屋での始まりへと戻ってしまった。






「…あの」


「俺がそういうこと嫌いな人間だって分からないか」




二宮さんはただ真っ直ぐ俺を見てそう言った。

一瞬何のことを言っているのか分からなかった。が、何処と無く寄せられている眉間の皺に『いい歳した人間が考えることじゃない』、そう数分前に言い放った二宮さんの影がちらついた。






「…俺はお前が思う"そっち側"の人間じゃない。

俺がどうしても許せない、そんな話をしたつもりだ」







するりと人差し指で机の表面がなぞられた。手前に真っ直ぐ線を引いたり、はたまた円を書くように。

けれども一箇所。
俺が前に一度手を滑らせて犬飼先輩の私物のチェス盤を落として出来た小さなくぼみの部分だけ、一度指を止まらせて存在を確かめるよう、ゆっくりとなぞられた。






「…勘違いとは言え、お前が抱いた大人に対する"気持ち悪い"は当たり前であって、一般的にそう感じられるべきだ」


「…けど、二宮さんのさっきの言い方だったら」


「だから俺はそういう大人になるなと言っている」





思わず奥歯を噛み締めた。

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