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一番近い飲み水用の水道は、
ロビーの向こう側なので、
この病室からだとすごくすごく遠い場所にあることを私は知っている。
うー、あんな遠くまで歩きたくないぁ。
「……」
一瞬先生の故意(こい)かとも考えた。
しかし、このサイズのお薬を水なしで飲むのは、
流石に大人でも厳しいでしょう。
それでも飲んでくださいという嫌がらせだとは思えないので(思いたくもないです)、
やはり先生は忘れてしまったのでしょう。
「……ぷっ」
もちろん――嫌な気分はしない。
むしろいつものようにおっちょこちょいを披露してくれた先生が微笑ましくて、ついつい笑ってしまった。
小娘の分際で年上の人を笑うとはなんたることかー、って
怒る人もいると思うけど、
リイア先生のことは笑っていいの。
別なんです。
いや――むしろ、特別なのです。
だって、リイア先生だもん。
天然でおっちょこちょいで、ちっちゃくて可愛い、
私の担当医さんで、心に安らぎを運んでくれる妖精さんなんです。
少しぐらいのおっちょこちょいも、
可愛いの範囲で納得できてしまう。
この前だって
「リイア先生って天然ですよね?」
「え?私天然じゃないわよ」
「その反応がすでに天然ですよ」
「医学の授業をします、人間はみんな人工よ。勉強になったかな?」
「……」
なんて天然記念物認定寸前のやり取りをして、
全病室を失笑の渦に巻き込んだ程だ。
うん、思い出しても可愛いなぁ。
しかし先生の古傷を抉(えぐ)ったところで、
水は湧いてはこない。
私はまだ朝早いのであまり音をたてないように静かに立ち上がり、
しかたなくベッドから下りて水道を目指すことにした。
冒険の始まりだ。
「……」
さて。
病院服は帯で縛ってあるだけなので
気を付けて動かないとはだけてしまう恐れがあり、
立ち上がるだけでもすごくすごく気を遣う。
もう14歳なので、誰も見ていないとはいえ、
格好ぐらい気にしちゃう年頃なのだ。
病院服が乱れないように上手にベッドから下りた私は、
スリッパを履いて廊下に出た。
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作者名:安里 | 作成日時:2013年9月16日 11時