囚人と紙飛行機少女アポリア (ページ11)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:3,170 hit

2 ページ11

私は少し驚いて、歩みを止めてしまった。
「……ッ！？」
あ、いや嘘、別に驚いてなんてない。
勇気溢れるこの私が驚く訳がない。
ただちょっと、ちょっとだけ不思議に感じただけだ。
廊下の向こうから――黒い髪の男性が歩いてきたのだ。
別に私が人見知りだから驚いたのではなく(むしろ『ふれんどりい』と言っていぐらいだ)、
その人が見たこともない人だったからである。
前言をすぐにひっくり返す形になってしまい、
すごくすごく申し訳ないのだけれど、
本当に全く知らない人だった。
この勝手知ったるフロア６のＣ棟で知らない人にいきなり会うのは始めてで、
お化けと勘違いしてしまうには十分な理由なんです。
とりあえず、私はすれ違いながらその人をじーっと観察した。
身長は185センチぐらいと高いが、
かといってデカい訳ではない、
つまりスラーッとした高さだった。
年は私のお兄ちゃんぐらいだから22歳ぐらいかな。
この国ではすごくすごく珍しい黒い髪(私の知っている限り黒い髪は皇帝様ぐらい)を肩にかからないくらいの長さで整えていて、
何やらとても眠そうな目をしている。
ぴょこんと髪の毛が一本立っているあたり、
寝起きなのだろう。
そしてリイア先生と同じ《白衣》を着ている。
リイア先生はこの前
『この《白衣》はね、
お医者さんがみんな着ることができる訳じゃないのよ。
選ばれたお医者さんだけが着られるの』
と小さな体を大きく見せながら誇らしげに自慢していたので、
たぶんこの人も選ばれた側のお医者さんなのだろう。
たぶんすっごい人なのかもしれない。
お化けなんて言ってごめんなさい。
「……(ｼﾞｰ)」
「ん、あれ？」
ドッキリ！
すれ違いざまに、
その男の人と目が合ってしまった。
これはすっごく気まずい。
何より私がじーっと眺め続けていたことがばれてしまった。
でもこんなに人がいない廊下で、しかもこの距離で眺め続けていたら、
それはばれてしまいますよね。
少し反省。
「どうしたんですか、けん……じゃなかった、ルリさん」

→→