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「……っ」
遠くまで逃げてきた。
それなのに、後ろが怖くて振り向けない。
もしかしたら、あいつが追いかけて来ているかもしれないと思ってしまうからだ。
逃げてきた脚が痙攣を起こしたように震える。
自分が殺される恐怖より、
家に残してきたあの子たちが殺されるんじゃないか、という恐怖が胸にずしりとのし掛かる。
早く、家に帰らなきゃ。
皆の顔が見たい。無事でいるか、確認したい。
帰って皆をぎゅっと抱き締めたい。嫌がられても良いから。
それほど今は一肌が恋しかった。彼らが恋しかった。
そう思うと何だか寂しくなってきて、楽しかった時間を思い出す。
――もうあの日々は戻ってこない。
人は過去に生きるものじゃなくて、今と未来を生きるものだから。
過去は所詮過去だ。二度とその場所へ戻ることは出来ない。
もう振り向かないで歩いていこう。
未知なる明日のために。
皆であいつを倒すその日のために。
目が熱くなって、胸が苦しくなって、頬に涙が伝った。
それを拭って帰路へと急ぐ。
途中でショーウィンドーから映された自分の目が一瞬だけ茜色に見えた。
それはきっと、今の空の色がこの赤に近い紫が混じった群青色の所為だろう。
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家に帰ると目を真っ赤に腫らし、泣きじゃくっているつぼみとこーちゃんがいた。
二人は僕を見るや否や体当たりする勢いで抱き着いてきた。
「…どうしたの、二人とも」
「あ、アヤノ、おね、ひっく、ちゃん、がっ…!!!」
キドが途切れ途切れに話し出す。
要約すると、「病院と学校から電話が来て、アヤノが飛び降り自殺をして亡くなった」ということだった。
「っ!?死んだ…?遺体が見つかった…?」
おかしい。アヤノは死んだわけではない。あちらの世界に行っただけ。
だから、遺体は見つからない。絶対に。
連絡か何かがくるとすれば、「アヤノが行方不明になった」ということだけだ。
……まさか、
僕はアヤノから聞いた目が冴える蛇の情報を思い出していた。
あいつなら、アヤノの死体をでっち上げることが可能だ。
財力も権力も持っている。あいつなら……
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作者名:桜音 | 作成日時:2014年2月24日 21時