Q29:人波を駆ける影 ページ30
俺はシャワールームから、第3体育館へと戻った。
が、そこには如月先輩の姿はなく、周囲を見渡す。
「?お前、どうした?」
「あ……すみません。如月先輩は?」
「如月?あいつなら、2軍に寄って1軍の体育館に戻るって言ってたぞ?」
「そう、ですか……わかりました。ありがとうございます」
俺はそう言うと頭を下げ、踵を返した。
がその瞬間、クラリと視界が歪み……俺は倒れそうになった。
トスッ
「……?」
「大丈夫?」
その声に、俺は顔を向ける。
その声は、俺がここに戻って、最初に探した人物だ。
「先輩……」
「!無理させちゃったね。端に行って、休ませてもらおう?」
先輩はそう言って、俺の左腕を自分の首にかける。
そして、俺の壁際まで連れていくと、ゆっくりと座らせてくれた。
「ちょっと待ってて?辛かったら寝てても良いから」
先輩はそう言うと、走っていく。
練習量が増えた程度で、情けない。
この時点では先輩に負けている。
だが、それも心地良い……。
(……俺に負けは許されない。許されるのは勝利のみ……将棋や囲碁も、全て勝ってしまう……)
俺はそう思いながら目を閉じた。
___
Aさんside.
第3体育館で赤司くんを休ませることになり、私はすぐに戻った。
赤司くんのそばに座ると、彼は座らせたままの姿で眠っている。
「辛いなら眠ってって言ったけど、そのまま?起きたとき、体が痛くなるよ」
私はそう言って、赤司くんを横にさせて、頭を私の膝に乗せた。
「……」
マネージャーの仕事をしてる間は、バスケをしてる人の姿はあまり見ないのに……赤司くんは不思議と見てしまう。
最初は目立つと思ってたけど……。
「……赤司くんのプレイを見てると、一緒にプレイしたくなる」
私は呟くと、赤司くんの額にタオルを乗せた。
それから私は、赤司くんが目を覚ますまでと、3軍の練習風景を見ていた。
そのときに見た、人の波を縫うように走る人影。
(あんな人……いたっけ?もしかして、1年?)
そう思ったが、次の瞬間にはその人影を見失っていた。
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作者名:アマユリ | 作成日時:2021年11月20日 16時