Q30:甘い匂い ページ31
赤司side.
「ん……」
何やら、甘い匂いがして目を覚ます。
体を起こすと、人の足が視界に入った。
(足?甘い匂いはこれか?しかし、何故……)
そう思いながら、頭に手を添える。
その瞬間、手にしたのは身に覚えの無いタオル。
(一体誰が……)
そう思い、足から上へと、顔を向ける。
だが、そのあとに少し後悔した。
「……スー……」
そこには、如月先輩の寝顔。
何故?
そんなこと、考えなくてもわかった。
おそらく、俺は倒れるか、眠ってしまったんだ。
そして、先輩が俺の体を労わって、横にさせてくれた。
「……先輩もマネージャーとして動き回って、疲れているのに、俺は……」
「うっ……」
「!」
突然の声に俺は先輩へと、視線を向ける。
先輩はゆっくりと体を動かすと、静かに息を吐いた。
「った〜……」
「……先輩?大丈夫ですか?」
俺が呟くと、先輩は柔らかく微笑む。
が、その表情は心無しか、気まずそうにも見える。
「起こしちゃった?」
「あ……いえ。少し前に起きました」
「良かった。私が動いたから起こしちゃったかと思った」
先輩はそう言って、今度は安心したように笑う。
しかし、今日はそれだけではなかった。
俺が黙って先輩を見ていると、フワリと優しく包み込まれた。
「……先輩?」
「ごめんね。なんか、今はこうしたい」
「今は?」
俺は首を傾げるしかできない。
「……なんとなく……赤司くん、隙がないから……こうされるのとか、抵抗がありそうというか……」
先輩の言葉に俺は目を見開いた。
隙がない?
どういうことだ?
そう思っていると、先輩が離れていく。
「赤司くん、あまり無理はしないでね?マネージャーはキツいし、いつでも抜けて大丈夫だから」
先輩はそう言って、立ち上がる。
抜けて大丈夫?
そんなはずがない。
女子にだって、洗濯やボトルがある。
それに、入ったばかりで抜けるのは、俺の教えに反する行為だ。
だが、先輩は何故ここまで俺に?
「……先輩は変わってますね」
「えっ?」
「変な意味ではないんですが……なんというか、先輩は暖かいと思います」
「暖かい?……赤司くん、親は?」
先輩は少し考えると、そう言う。
俺は目を伏せ、どう答えるべきかを考える。
深い意味はないのかもしれない。
「……小学5年のとき……母が病で亡くなり……父は更に厳しくなりました」
俺が正直に言うと、先輩は少しばかり悲しそうにしてしまう。
訪ねる前に「それって、寂しいよね」と先輩は呟いた。
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作者名:アマユリ | 作成日時:2021年11月20日 16時