夜はまだ明けない 【冨岡義勇】

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兄は、優しく明るく、そして行商として口も上手で、将来を熱く期待されていた素晴らしい人物だった。

「Aは器量もいいし、気もきくし、何より相手を良い気分にさせるのが上手い。あっという間にお嫁に行っちゃいそうで、兄ちゃん寂しいなぁ」

それが兄の口癖で、それはお兄ちゃんのほうでしょ、といつも思っていたことを覚えている。

「行商ってのはな、お客様あっての商売だ。いつでも相手への感謝を忘れてはいけないよ」

父や母よりもたくさんのことを、兄には教えてもらった。
今のこの生活で、義勇さんの優しさが身にしみて感じるのも、何より義勇さんと出会えたことさえも、あの時恐怖に足のすくむ私を兄が手を引いて走ってくれたからなのだと、心の底から感謝している。

あと少し、あとほんの一瞬でも早く、義勇さんが助けに来てくれていたら。

そんなことを考えたこともあったが、最近鍛錬を積んでいく上で、それは自分の未熟さゆえの責任転嫁でしかないと気付き、今ではただただ命を救ってくれた恩人に、少しでも報いたいという気持ちしかない。

「そんなことでは鬼殺隊など無理だ」

義勇さんは最近こればかりで、兄のように明るく口が上手いわけではないけど。
大好きだった兄のように優しく穏やかな義勇さんを、どうしても失いたくないと強く思う。

お兄ちゃん。
会いたいよ。寂しいよ。
それでも私、頑張るから。頑張ってるから。
今度こそ大切なものを、自分の手で護ってみせるから。
だから、次会った時は最期にしてくれたように優しく私の頭を撫でて、「よく頑張った。偉いぞ」って、「Aは自慢の妹だぞ」って、いつもの優しい笑顔で、たくさんたくさん甘やかしてね。

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