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義勇との厳しい稽古に、Aがなんとかついていけるようになってきていた、そんなある日。

「おかえりなさい。義勇さん」
「……」

いつもなら「ああ」とだけ言ってさっさと自室へと行ってしまう義勇が、その日はAを見つめて立ち止まり、何か言いたげに視線を落とした。

「義勇さん?」

笑みを浮かべてAが義勇に近付けば、「今日」と言ったきり黙りこんだ義勇が、何かを迷うようにしきりに視線をさまよわせる。

ゆっくりでいいですよ、という意味をこめてAが義勇のきつく握りしめられた両手を優しく包み込むと、義勇はゆっくりと視線をあげて、「今日」ともう一度繰り返す。

「はい」
「鬼にされた妹をかばう少年を見て、Aを思い出した」
「……」
「俺は…また、助けてやれなかった」

再び視線を落として黙りこむ義勇に、Aは努めて優しい声で「私は、義勇さんに感謝しているんですよ。私が今幸せを感じられるのは、全部、あの時助けてくださった義勇さんのおかげなんですから」と言うと、義勇は視線を落としたまま遠慮がちに小さく口を開く。

「…いっそ、自分が死ねば、と…思う者もいる」
「そうですね。…実際、私も思っていました。何の役にも立たない私より、優しく明るく、たくさんの才に恵まれた兄こそが生き残るべきだったと」

何を思っているのか、夕陽をうけて煌めく義勇の瞳が、ゆらゆらと揺れ動きながらもじっとAの表情を見つめて、苦しげに細められる。

「…でも、ある時気付いたんです。兄は、足が、速かった。…兄一人なら、きっと逃げきれた…」

思わず溢れそうになる涙を、Aはまばたきで誤魔化して言葉を続ける。

「…でも、兄は私を見捨てなかった。…見捨てなかったんです」

義勇の両手を包み込む手に力を込めながら「何度も考えました。兄があの時自分の命を優先して、遠ざかる兄の背中に未来を託して死ねたら、どんなに幸せだっただろうって」とAが呟くと、何か身に覚えでもあるのか反応をみせる義勇に、「すみません。不謹慎でしたね」とAは手を離す。

「幸せ…、だっただろうか」

縋るように向けられた義勇の視線に、Aは「幸せでしたよ、きっと」と優しく微笑んで、刹那、まるで泣いているのかと錯覚してしまうほど大きく揺らめく義勇の瞳と、少々乱雑に抱き寄せられるAの身体。
すぐそばで聞こえる義勇の震える息遣いに、Aは初めて、義勇の大切な部分に触れられたような気がした。

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チーズ(プロフ) - レインさん» コメントありがとうございますー!!不器用、じれったいをモットーにして書いたものなので、そう言っていただいて嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございます! (2019年12月17日 21時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - 義勇さん不器用すぎていつ、くっつくんだ!早くくっつけ!クソッ!!見てるこっちがなんかアレだ!!(語彙力) 面白い!! 完結おめでとうございます! (2019年12月17日 20時) (レス) id: 05e6c43b69 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - たまごさんさん» 最後までお付き合い頂きありがとうございます!!そうだったんですね!嬉しいです!次作でもどうぞよろしくお願いします! (2019年12月1日 7時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
たまごさん(プロフ) - はああ・・・やはり良きです・・・完結おめでとうございます!!無惨様の作品は知らず知らずのうちに見ていました!!好きだなあと思って、作者誰だろ?と下にスクロールしたらまさかの・・・。僭越ながら次作でも応援させていただきます!! (2019年12月1日 0時) (レス) id: 8760f7a678 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - orangeさん» こちらこそ、最後までお付き合い頂きありがとうございます!ぜひ書かせていただきます(^^)もうしばらくよろしくお願いします! (2019年11月30日 23時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:チーズ | 作成日時:2019年11月13日 13時

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