【文スト】中原中也の奮闘記録

真反対 ページ9

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『――そういえば初めて会った日もこんくらいの時間に車でここ通ったよねえ』


絶賛右手に万年筆を持っている其奴は、俺が今正に其の時の事を思い出していた、なんてお見通しらしい


あの時首領の所に此奴を連れて行かなければ、あの儘この道路で外に放り出していれば、或いは始末していれば

こんな事にはならなかった


こんな事には…―――



『おやおや、随分私の事が嫌いなんだね、そんなに後悔してるの？一ヶ月前の自分の行動』

「後悔してもしきれねぇよ」

『清々しいくらい本心だね』

「おー、はい没収」

『あ』


愉しそうにぷらぷら揺らしてる万年筆を取り上げてやった


今は駄目だ



『私に隠したい事があるのは構わないけど、燃やさないでよ、せめて精神統一してから返してよ』



精神統一なんか出来るかよ

此奴を見てると厭でも隠したい事とやらが浮き彫りになる、本当厄介だ



「――ンなもんねぇよ」

『そう？あ、寄り道してもいい？』

「……あァ」



俺が此奴の監視という名の面倒を見るようになってから判った事が幾つかある

勝手気儘、重度の放浪癖、朝が弱い、それから、



――恋人が居る



そして其の男は…―――




『あちゃちゃー、花ってなんでこんな直ぐ枯れるのかね、未だ一週間しか経ってないってのに』

「……」




一ヶ月前、死んだ

此奴と出会った、例の抗争で



「…毎日水やらねぇと枯れるに決まってンだろ」

『ええ、じゃあ中原君がやっておくれよ』

「面倒臭ェ」

『出たよ面倒臭ェ…酷いなあ、其れくらいしてやっても罰当たらないよ』

「……殲滅した敵に花手向けて世話するマフィアが何処に居ンだよ莫ァ迦」

『くそう、生意気に論破しよって』



ヘラヘラ笑って立ち上がった此奴は、一体其の笑顔の裏で俺にどんな感情を抱いているのか

組織も恋人も失った女、其れを奪った俺


少なくとも…―――



冷たい風で靡いた長めの黒髪が其奴の顔に掛かる

其の隙間からほんの一瞬覗いた、憂いを帯びた瞳から目を逸らした




―――少なくとも、俺とは真反対の感情である事は確かだ


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