【文スト】中原中也の奮闘記録

訊かれてない ページ8

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『――次の信号右折でえす』



呑気且つ無遠慮に助手席でナビをする其の女

パッと見ちんちくりんだから餓鬼かと思ったが、どうやら俺より二年早く生まれたらしい

本当に年上だった、信じたくねェ


「…作家、って云ったか」

『云いましたとも』

「あんな血生臭い場所で浮かぶアイデアなんざ碌なモンじゃねぇだろ」

『いやあ、実に素晴らしいアイデアが浮かんだんだけどね、意味なくなっちゃったんだよねえ』

「あァ？そりゃ又何でだ」


何となく訊いた其れは、其奴がとんでもない爆弾を投下する引き金だった

耳を疑った俺は、深夜で車通りの少ない道路のど真ん中で思いきりブレーキを踏み込む


『いっっったっ！痛い！おでこぶつけた！』


知らねェ、シートベルト締めてねぇ手前が悪い

ンな事より此奴今―――


「――今、何て云いやがった……？」

『若しかして耳遠いの？』

「外に放り出されてぇか」

『スンマセンご勘弁を』


ちゃっかりシートベルトを締め乍「口悪いなあ最近の若者は」とボヤく其奴は、今しがた云った事をもう一度繰り返す



『―――君達が、私の部下を皆殲滅しちゃったからだよ、せっかく次の作戦立案の為に前線に行って見事アイデアが浮かんだのに、無駄になったの、お判り？』


私の部下？作戦立案？じゃあ此奴は…


「…作家じゃねぇのかよ」

『作家だよお、戦略論の作家』

「ンな事一言も云わなかったぞさっき」

『でも嘘も云ってないよ』

「部下ってのは」

『君達が先刻鎮圧した組織の作戦参謀なんだよ私』

「訊いてねェ！！！」

『訊かれてないもの』


如何すっかすげぇ腹立つ、ギリギリ正論な辺りが余計煮え切らねェ


どうりで無駄に長引いた訳だ、今回の抗争

こんな厄介な女が作戦参謀やってたんだ、納得がいく



「行き先変更だ」

『寄り道だね！わくわくするね！』

「あァ、ポートマフィアの本部ビルだ、そりゃわくわくすンだろうなァ」

『なんと、忘れ物かな？』

「……手前危機察知能力どっかに落としてきてねぇか…？」



あくまで呑気を貫き通す其奴

一応敵幹部と云ってもいい女をこの儘帰す訳にもいかず、かと云って今直ぐ手をくだすにもなんか気が進まねぇから


―――取り敢えず首領に相談するか



『お、私の完璧な作戦を破った組織のトップに会えるんだね？尚更心躍るねー』

「……其の万年筆一旦俺に預けねぇか」

『それだけはやだ』


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