【文スト】中原中也の奮闘記録

珍しい ページ29

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『―――中原君』


と、訊き慣れた声で目が覚めた



「…頭痛ェ」

『でしょうな』

「…躰怠ィ」

『ええそうでしょうなあ』

「…何処だここ」

『私の部屋』

「……なんで俺は手前の寝台で寝てンだ」

『君が数時間前に押し掛けてきたんだよ、忘れたとは云わせない』

「忘れた」

『ああ！云ったな！しかも即答！』


成る程、昨日飲み過ぎて酔っ払って朝方こいつの部屋に押し掛けて、その儘寝たわけだな

状況は大方掴めたが、一つ疑問がある


「――手前、なんでさっきからこっち見ねぇンだよ」

『き、ききき気の所為じゃない？』


どんな気の所為だよ

寝台横の椅子に腰掛けてる癖に、俺が目を覚ました時からずっとこちらに顔を向けずに話してる其奴


誰がどの角度から見ても怪しい


「おい」

『なっ、なんだい中原君…』



呼び掛けるとあからさまに動揺したような応答


訳も判らずそっぽを向かれてる事に苛立って、其の腕を掴んでこちらを向かせようとすると

ビクッと、大きく跳ねた肩


怪訝に思い乍引っ張ってみるも、顔だけは意地でも動かさない


如何したんだ此奴



「おい、A、こっち向けって」

『絶対に厭だ』


ここでプツリと、俺の中の何かが切れた



『――わわっ！』


云う事訊かねぇ奴には実力行使だ

ぐいっと、掴んだ腕を思い切り引っ張ると寝台に倒れ込んだ其奴、其の顎を掴んで無理矢理上を向かせた



『…っ』


大きく目を見開いた、其の顔は



「―――手前、真っ赤じゃねぇか」

『う、えっ、と…』


身動き取れずに吃る其奴の前髪を退かして額に触れる



「熱かァ？」

『ね、熱…かなあ…』

「何だそれ、どっちなンだよ」



普段余り焦る事の無いAだが、今迄に無いくらい言葉を詰まらせ、目を泳がせ、しまいには「少し一人にしては呉れまいか」と


本当に如何した此奴



「熱なら粥かなんか食うか？」

『うん、うん、後で食べるから中原君の手作り粥、だから一寸だけ一人にして、一生のお願い』

「誰が作るって云ったよ」

『いいいいいから！頼むよ！ほい！ほれ！』



と、ぐいぐい背中を押されて部屋を追い出された

色々腑に落ちないが、取り敢えず




「………粥って如何やって作ンだよ…」


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