【文スト】中原中也の奮闘記録

優しさ ページ18

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＿＿＿＿＿ドサッ



って音で目が覚めた


時刻は午前九時



もそもそと毛布から顔を出すと


「あ、悪ィ、起こした」



机に大量の書類を置いたのであろう中原君が居た


『早起きだね』

「九時は早くねぇだろ」



おそらく溜め込んでいる仕事をしに来たのだろう

幹部だからこそ仕事量が多いのはよく判るが、だが然し解せない


『なんでここでするの？中原君ゴキブリ苦手なの？』

「執務室にゴキブリが出た前提で話すのやめろ」


未だ毛布に半分潜ってハテと首を傾げる私を一瞥してから、「目離して失踪されちゃ困るンでな」と


『常習犯みたいな云い方やめない？』

「常習犯じゃねぇか」

『信用無いなあ、約束は守る方だよ私』



心底信用無いといった顔で振り向いた中原君は、数秒私の顔を見つめてから立ち上がって、寝台の前迄歩み寄ってきた

そして徐ろに手を伸ばして私の頬に添えると


『わ！何、何何何』


ぐいっと、親指の腹で目の下を擦られた



「隈、酷ぇぞ手前、何時に寝た」



至近距離の真顔、うん、今日も男前だ

……じゃなくて


『そんなに目立つ？』

「いや、目立ちはしねぇけど、手前の顔は見飽きる程見てっからいつもと違う事くらい直ぐ判ンだよ」

『………そう』



ここで私は察した、中原君は、きっと天然たらしだと

そんな事云われたら、誰だって嬉しかろう、私だって一寸ドキッとしちまったよ、畜生



『…最近寝付き悪いんだよ、だから枕も新調したのに、矢っ張り朝方迄寝れないの、困ったもんだよ』

「……帰りてぇか？」

『へ？』

「自分の家に」



胡座をかいて座る私を、寝台の前に立って見下ろす中原君、仮に私が帰りたいって云ったら、本当に帰れるようにしてくれそうだ

彼の本質は、きっと優しさで出来てる


優し過ぎるのだ



『―――別に、何処で寝ても一緒だよ』

「そういうもンか？」

『うん、それに、ここで中原君に世話してもらう生活も悪くないし』

「誰が世話係だ」



――だからかな、太宰君に攫ってあげようかって云われた時、即答出来なかったのは


なんとなく、中原君と離れるのは惜しい気がしたんだ


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