【文スト】中原中也の奮闘記録

彼の機嫌 ページ17

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そもそも論、中原君の機嫌を伺う必要性が私にはあるのか…？


太宰君の事さえ黙ってれば、彼が怒ってようが私には関係なくないか…？


あれ、ないよね？別にないよね？


ちらり、運転席の中原君を盗み見る



「………」



うん、矢っ張りある、怖い、怖過ぎる、こんな中原君は厭だ、いつもの口煩いけど世話焼きな中原君が善い


そうと決まれば



『な、中原君！』

「………」

『おお怒ってますよね！』

「………」

『で、すよね！うん！判るよ！』

「………」

『えーっと、えっと…』


忘れてた、私、彼の機嫌を取る方法知らない

こういう時は素直になるのが一番だって、昔誰かが云ってた気がする


気がするんだけど…


「………」


私の心も折れそうです……



『あの、中原君…』


駄目押しでもう一度呼び掛けても矢張り返答は無くて、参ったなあなんて思い乍下を向いてボソボソ、勝手に口から漏れるのは



『…そんなに怒らないでよ、いつもみたく文句云ってもいいから、無視は一寸、一寸だけ、寂しいなあ』


と、この後に及んで子どもじみた駄々で


云ってから、こりゃ余計怒るなあと、溜め息が出た



すると数秒後、私より何十倍も大きな溜め息が運転席から訊こえてきたかと思うと、ぽんっと、大きな手が私の頭に乗った


ちらりと、其の手の主を見上げると


『わ！』


髪の毛をぐっしゃぐしゃにされた、雑い



「――本当ずるいよな、手前」

『何がでしょうか』

「何でもねぇよ莫ァ迦」

『ば、莫迦で結構なので、機嫌を直しては呉れまいか…』



恐る恐る尋ねてみると、ハンドルを握り乍ちらりと私を一瞥して、「約束、次から守れンならな」と


『約束とは…？』

「…失踪すンなら、置き手紙じゃなくて、俺に直接云え、購いもんでもなんでも、連れてってやるから」



ほお、そりゃ実に私得な約束だけど


『でも其れ、最早失踪って云わなくない？』

「五月蝿ェ、守れンのか守れねぇのかどっちだよ」

『守りますとも』

「なら善い」


何が善いのかはよく判らんが、又ぐしゃぐしゃと私の髪を散らかしている其の横顔は、少しだけど緩んでいる

取り敢えず、機嫌は直してくれたらしい、一件落ちゃ＿＿＿＿＿＿



「太宰に何云われたかは後で吐けよ」

『ですよね…』


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