【文スト】中原中也の奮闘記録

他の何よりも ページ32

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時刻は午後五時

Aの意味不明な態度に午前中から絶え間なく苛々してる俺は、スマホで粥の作り方を調べていた


惚れた弱み、とはよく云ったもんだ


どんなに振り回されて苛立っていても世話を焼いちまう、そんな俺に勝ち目はない


溜め息を吐き乍執務室の扉を開くと



「何だ之」


常に書類の山で散らかっている卓上は綺麗に整頓されており、其の真ん中にドンっと置かれていたのは



「……ロマネ・コンティ…と、万年筆…」


如何して俺の執務室の机の上に世界最高峰の葡萄酒があるのか、あいつを連想させる万年筆があるのか

考えれば直ぐに判った


丁寧にリボンで飾られた其の二つを持って、一番に思い立った奴の部屋に向かう



―――ッたく、朝から苛々させられたり、浮つかされたり、つくづくあの女に振り回される



目的の部屋に着いてバンッと勢い善く扉を開いたが、中には誰も居らず、持ってきた二つの贈り物を置いて、本部ビルを出た


向かった先は以前あいつが泣いていた川縁のベンチ


どうやらここが気に入ってるらしい



近付いて、隣に腰掛ける


「――こんな所で何やってンだよ」



話し掛けると、目線こそ合わせないが、其の表情は穏やかで、まるで―――



『君を待ってたんだよ、中原君』

「部屋で待っとけよ」



態々探させる辺りも此奴らしいが


『いやあ、ここなら直ぐ判ってくれると思ってね』



愉しそうに云うと其奴は、風に靡いた髪を耳に掛け乍、「それに」と続けた



『大事な記念日に、いつもの部屋は一寸ねえ、少しでも、風情のある場所の方が素敵じゃない？』


静かに見守るような斜陽が、ゆっくりと落ち乍其奴の横顔を照らした

そこから目が離せなくなるのは最早不可避で、漸くこちらを向いたAと視線が交わる


それだけで、只目が合うだけで、今日一日の苛々なんて全部吹き飛ンじまうのに




『―――いつもありがとうね』



滅多に云わないような礼を云って、少し、間を置いてから其奴は




『――誕生日おめでとう、中原君』



と、目を細めて、綺麗に微笑んだ



どんなに珍しい葡萄酒も、どんなに高価な万年筆も、比べものにならねェ




「あァ、最高のプレゼントだ」


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HBD to C.Nakahara !! (4.29.2018)

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