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「…っ」
1度触れて、ちょっとして離れて。
顎を引いて開けた目の先で、真っ直ぐに私を見る先生の瞳と目が合ったら。
また無言のまま、塞がれる唇。
今度は容赦なく入って来た舌に、全身が力を無くして。
先生のYシャツの肩をぎゅぅっと掴む。
体育館から聞こえるパイプ椅子がガチャガチャ動かされる音と。
私たちの濡れた唇がくちゅって擦れ合う音が、耳の奥で混ざり合う。
ふらっと揺れた制服の裾が先生の足を撫でて。
ゆるく腰に回された腕に、微かに力が籠る。
「…んっ」
翔「……」
絡め取る舌の動きに心臓が破裂しそうで。
唇の端から漏れる吐息の先で、中庭から生徒の賑やかな声が聞こえたら。
ちゅって淡い水音を立てて、唇が離れた。
「…っ、はぁ」
翔「このくらいでフラフラすんじゃねーよ」
「…っ」
翔「えろガキ」
見事にふらっふらの私を呆れた顔で見て、ふんって鼻を鳴らす。
……なんかもう。
これから卒業式ってことを忘れそうです、先生。
翔「そろそろ行かねーと。最後のホームルーム遅刻すんぞ」
「…っ、先生も」
翔「あぁ。職員室戻ってスーツ着ねーと。俺先出ていい？」
「はい」
翔「最後の最後で誰かに見られるとかヘマすんなよ」
「っ、気を付けます」
「じゃあ行くわ」って、先生が跳び箱から身体を起こして腕を離す。
「…先生っ」
翔「あ？」
「来てくれてありがとうございました」
翔「卒業間際にイケナイコト出来たし？」
「…っ」
翔「式で俺に名前呼ばれた時、そのデレた顔すんのやめろよ」
「…気を付けます」
俯く私に、ふっとからかうようなため息をついて。
「じゃあ教室で」って、先生が用具室から出て行く。
少し時間を置いて、こそこそと体育館裏を抜け出して。
中庭に出たら、いっぱいの生徒たちの笑い声と。
抜けるような青い空。
―― "じゃあ、最後にまたせんせーとイケナイことでもする？"
この爽やかで清々しいはずの朝に似つかわしくない、色っぽ過ぎる声を振り払って。
「…うん、卒業式っ」
当たり前のことを呟いて、下駄箱へと歩き出す。
腰が砕けるような "イケナイ先生" のあとは。
ちゃんとした先生に逢いに行く。
優しくて、爽やかで、全女子生徒のアイドルな。
最後の "櫻井先生" に逢いに行く。
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作者名：あげは
| 作成日時：2016年7月6日 1時
