本音。4 ページ5
･
「決心はついたかしら」
家に帰ると、奏は別室に行くよう指示され、お母さんと乃愛と私の三人でリビングのテーブルを囲って座った。
決心がそんなすぐにつくなら、さっきあの場で返事してるよ…と言いたいが、お母さんは私が逆らわないことを分かっているのだろう。
『まず…なんでいきなり海外に行くことになったの？』
「日本で講師を呼んでレッスンをしているより、私が直接指導した方がAも上達するでしょう？」
『…行きたくないって言ったら？』
「才能がなくてももがいている人間がいるのに、貴方は才能をドブに捨てるの？」
隣に座る乃愛が、ぎゅっと自分の手を握り締めた。
…言えない。行きたくないなんて。
「…一言でいいのよ」
珍しく優しい声色で、微笑んでお母さんが言う。
一言？
「Aは、音楽が好き？」
…歌うのは好きだし、ヴァイオリンもピアノも、嫌いじゃない。
“天才音楽家”というレッテルが貼られるのが、嫌なだけで。
いくら頑張っても、私は音楽を嫌いになれない。
「音楽が好きなら、来なさい。
海外に行けば、英語も流暢になって歌える曲が増えるし、作曲も教えるわよ」
『いや、うん…でも歌い手として…』
「…そんなに動画サイトに投稿したいの？」
不思議そうな顔で尋ねてくる。
…違う、そうじゃなくて。
『音楽家と違って、聞いてくれる人との距離が近いの…
無料で曲が聞けるから誰でも興味を持ちやすくて。動画に対するコメントを見たり、たまに生放送をしたり…身近なアイドル、みたいな』
「…無料だなんて、勿体ない。自分の価値を下げているようなものだわ」
『っ、自分の価値を下げてでも！大勢に認められたかった！！』
ガタン、と座っていた椅子から立ち上がって叫ぶ。
あぁ、恥ずかしい。醜い感情だ。
驚いているお母さんと乃愛を無視して、言葉をこぼす。
『…っ零原麗華の娘の、零原Aとして評価されるのは嫌だ！私は私で、自分の力で評価されたかった！！
価値なんてどうでもいいよ！認められたいの！！
親が世界的に有名な音楽家だからって、“天才音楽家”のレッテルを貼られたくなかった！！！』
「A……」
『…取り乱して、ごめんなさい。
だけど私、自分の実力を試してみたかったんだ…』
後悔はしてないし、今後もしない。
動画も消すつもりはない。
そう、はっきり言った。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 529人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Ruriyuri - 久しぶりにコメントを書くほどはまりました！面白かったです！ (2022年9月4日 22時) (
レス) @page9 id: 825b0bc841 (このIDを非表示/違反報告)
天音 - ここまで何ですか？本当にそうだとしたら続きが見たかったです。。。。。。 (2022年7月30日 9時) (レス) @page9 id: a73e1261aa (このIDを非表示/違反報告)
わたとあめ(プロフ) - 一気読みしました…！とても面白かったです！続きはないんですか…？ずっと楽しみにしてます(・ω・`) (2020年8月18日 18時) (レス) id: 36374236e3 (このIDを非表示/違反報告)
寝子(プロフ) - は？ここまでですか…？めっちゃいいところでは？なぜ完結扱いになっているのですか？……続き、まってます！更新楽しみにしてますよ！ (2020年8月17日 18時) (レス) id: 7be43a5c44 (このIDを非表示/違反報告)
はく - 凄く面白いです。時々鳥肌立ちました。更新頑張ってください！ (2020年5月6日 4時) (レス) id: 4d0b20ffc1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鈴里風夢
| 作成日時：2020年2月25日 23時
