十六話 ページ16
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『曲、覚えたので一緒に歌って貰えますか?』
「え、もう覚えたの?」
朝、朝食を食べ終わった後に、Aちゃんに声を掛けられる。
思っていたよりも早い。そういえば、あの後ずっと聴いてたなあ…
「いいよ。俺は…ギターを弾くだけでも、いいかな?」
『あ、はい。お願いします!』
マイクを手渡して、録音の準備をする。
絵をお願いすることも出来ないし、ギターを弾いている所を背景にするか。
カメラの調整をして、軽く声出しをして貰う。
Aちゃんの『お願いします!』という声で、録音を始めた。
拍を取ってギターを弾き始める。
俺が作った曲を、Aちゃんが透明感のある声で歌う。
この曲は、元々Aちゃんの為に書かれたんじゃないかと思う程、彼女の声にぴったりだった。
部屋に吸い込まれるように消えていった歌声に、思わず鳥肌が立った。
「…っ凄いよ!永遠に聴いていられる!!」
『真冬さんの曲がいいだけです…』
満面の笑みを浮かべて、俺の手を握る。
『こんなにも素敵な曲を歌えて嬉しいです。
作曲して下さり…ありがとうございます』
「…っ」
曲を書くことが、義務のようになっていた。
気付いてもらえないまま、曲に気持ちをぶつけて、ぶつけて…
でも、結局無意味で。
…何も、変わらなくて。
歌詞にありありと恋心が表されているこの曲。
解釈するような曲の方が、何かを叫ぶような曲の方が、
リスナーは好きだし人気にもなる、ということは知っている。
だから、あまり需要がないかな…と思って、気に入っていたけどボツにした。
一生、世に出さずに終わると思っていた。
「俺の方こそ…歌ってくれて、ありがとう」
そう言って、手を握り返した。
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作者名:鈴里風夢 | 作成日時:2019年2月2日 17時