僕はまふまふじゃない (ページ15)

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十五話ページ15

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『ど、どう…でした？』

「いやもう…うん」

何も言えず、とりあえず盛大な拍手をしておく。
上手い。上手すぎる。

あの高いキーをこんなに軽々と歌い上げるなんて…

馬鹿なのか、Escapism…とだけ言いたくなった。
勿体ないよ、手放すのは…

「凄く上手かった…あのさ、バンドの録音とかない？」

『あ、録音あります！』

それを再生させてもらい、聴いてみる。
曲は、昨日ライブハウスで聴いた曲と同じものだった。

…やっぱり、そうか。

「Aちゃんの声域と音域が合っていない…というよりも、Aちゃんのパートが歌いづらいだけなのかも」

低いキーが出ないと思い込んでいたけど、さっきの曲でちゃんと出ていた。

もう一度聞いてみると、もう一人の子のパートより、断然歌いづらい。
高低差が激しい上に、アップテンポだからかな…

もっと、ちゃんと彼女にあった曲を歌えば…折角の才能が勿体ない。

「…あ、そういえば」

パソコンの中のお目当ての音源を探す。
…これだ。

新しく作ったけど歌っていなかった新曲が一曲だけあった。

俺が歌いやすいキーだから、Aちゃんも歌いやすい…はず。

「この曲、あげるよ。
まだ世間に出していない曲なんだ」

『え…も、貰えません！』

「趣味で作った曲だし、誰にも歌ってもらえないよりは…ね？」

『え、え…本当に？
……ありがとう、ございます』

その返事を聞いて微笑み、再生ボタンを押す。
目を瞑って集中して聴いているみたい。

曲が終わると、ぱちぱちと拍手をされた。

『とっても素敵な曲ですね！早く歌いたいです…！』

「じゃあスマホに同期してあげるよ」

『どうき…？』

「あー…スマホ貸してくれる？ついでに連絡先も登録したいから」

『はい！』

スマホを借りて、曲を同期しつつ連絡先を交換した。

スマホを受け取ったAちゃんは、早速イヤホンを取り出して曲を聴き始める。
…気に入って貰えて良かった。

俺も弾いてみよう、と思い、ギターを手に取る。
曲の雰囲気を思い出しながら口ずさむ。

「…うん、ちゃんと弾けるや」

『す、凄い…歌声綺麗…』

まぁ一応本業だから…ということは言わないでおく。

久し振りに生で歌った。それも、まだ知り合って数日の女の子を前に。

未完成の、完璧じゃない歌声を聞かせられない、って今までなら思ってたけど…

いい方向に前進しているってことかな？

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