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「大人ならば、責任を負いなさい」
一刀。
「____ア」
断末魔の声も上がらない。
情報の開示によって増幅した術式は、人形師の身体を7:3、正確に切断した。袈裟懸けに切り落とされた身体は、綺麗に人形の部分と生身の部分に分断され、床へと崩れ落ちる。
おそらくは人形師の魂を養分に動いていたのだろう、切り離された人形の身体は、ガチャガチャと無機質な音を立てていたが、やがて動かなくなった。
そして。
「……ア……ア……ア、あ……あぁ……」
言葉にもならない声で、か細く呟いて、人形師は糸の切れた人形のように動かなくなった。ほどなくして、まるで臍の緒を切られた仔のように、小虫の如き小さな呪骸も、次々と動きを止めていく。
皮肉にも、死の間際の一瞬とはいえ、人形から切り離された生身の身体は、人間として死ぬことができたと言えるだろう。
その真実が、決して誰の胸を晴らすものでなかったとしても……七海の一刀が彼を人間に戻したことだけは、事実である。
「お疲れ、七海」
五条に肩を叩かれ、七海は凝りを解すように腕を回した。
「アナタがやってくれた方が楽だったのですけどね」
「それじゃあ帝夜の授業にならないもん。それに、こんなヤツでも一応、人間として葬るんだったらオマエの術式の方が向いてるよ」
「向きたくありませんね、こんな仕事。そして私を教材にしないでください」
「こんな先生でホンマすみませんね」
「とりあえず帳だけ下ろして、処理は任せよう。さすがに死体の処理は手に余る」
「今回何もしてないでしょうが、アナタたち」
「じゃあ死体処理ウチがしよか?その代わりしばらく死体背負ったまま歩くことになるけど」
「遠慮します」
七海の長いため息を最後に、室内には静寂が戻っていく。獅子の置物も、作り物らしいミイラも、マムシのホルマリン漬けも相変わらず、主を失った室内に鎮座している。
その部屋の主が、人間だったのか、人形だったのか。呪術師たちが訪れた時点では、曖昧な話。
ただ、床に広がった血の痕は、人間の証明であるかのように鮮やかで。やがてその痕跡も、まるで何事も無かったかのように、跡形もなく拭われて。
最後に静寂だけが、地下の奥に残った。
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柳(プロフ) - 匿名希望:我妻さんさん» あっ、ありがとうございますぅ(ニコニコ)ほら行くぞ麗音(お姫様抱っこ) (2021年4月8日 2時) (レス) id: b155e22954 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 柳さん» どうぞどうぞ(ニッコリ) (2021年4月8日 1時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
柳(プロフ) - 匿名希望:我妻さんさん» はいそうです。お持ち帰りするね() (2021年4月8日 0時) (レス) id: b155e22954 (このIDを非表示/違反報告)
匿名希望:我妻さん(プロフ) - 柳さん» ご注文は麗音ですか? (2021年4月6日 16時) (レス) id: 590a3884b3 (このIDを非表示/違反報告)
柳(プロフ) - 匿名希望:我妻さんさん» おぉ!マジか!!楽しみにしとく!! (2021年4月3日 14時) (レス) id: b155e22954 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名希望:我妻さん | 作成日時:2021年2月20日 19時