スパイラル[後編]

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「お疲れー」
「お疲れー渉」



収録が終わり、楽屋に入ると同時に周りを見渡す藤ヶ谷。楽屋には横尾だけが座っていた。



「みんなは帰ったよ、太輔がスタジオで喋ってる間に」


(良かった…)



藤ヶ谷は安堵の息を吐く。
スタジオで無駄に最後までいたのは北山と玉森に逢いたくなかったから。北山と玉森が二人で帰っていくのを見たくなかったから。子どもだと言われるかもしれないが嫉妬という感情だけはいつまでもなくなってくれないし成長してくれない。
いち早く帰る横尾が楽屋にまだいたのを不思議に思いながらも藤ヶ谷は帰る準備を始めた。


着替えをしながらも先ほどあった光景が脳でリプレイされる。北山と玉森のキス、付き合い始めたこと、あの時きちんとおめでとうと言えただろうか。虚偽の自分でも怪しまれなかっただろうか。


「太輔は平気なの？」



横尾の言葉が藤ヶ谷に届く



「確かにミツと別れろとは言ったけどさ。太輔は平気なの？」



真っ直ぐな横尾の言葉。
途中で横やりをいれたのは自分自身。北山は充分幸せだったのに。それは横尾に教えられた。
全く間違っていない...
でも、優等生な自分を演じることに少し疲れたのかもしれない。



「平気な訳ない！本当は嫌だよ…！」
「・・・」
「誰にも渡したくない。笑っておめでとうって言うのに必死に作って。タマのところになんか本当は行かせたくなかったんだ…行かせたくない！オレが宏光を守りたいのに！オレが宏光を幸せにしたいし、幸せにしてほしいのに！」


親友にもあまり見せない負の感情･･･
欲に溢れた想い


「離したくなんかなかったんだ…」



ずっと秘めてた思いを、打ち明けると止まらなくなる。あの日あの時自分がした決断は間違っていたんではないかと何度も悔いた。



「ずっと後悔してる...失う勇気もないくせに、手放したこと…宏光との幸せがないともう生きていくのも怖いのに...」
「…太輔、幸せって人を臆病にするよね。失いたくないから。弱くなる。相手のことばかり考えて、自分のことも考えず。人の言葉で左右される」
「・・・」
「俺は太輔を試したんだ、人に左右されて揺れるような気持ちじゃ人から最愛の人を奪うことは出来ないよ。何があっても何を言われても守るっていう想いがなければ略奪なんてしちゃダメだ、そんな決心もないのに人の幸せを奪うなんて上手くいきっこない」
「…わた」



横尾は意地悪で言っていた訳じゃない。
藤ヶ谷や北山そして玉森のため。

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