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#17 ページ17

「そもそもAは1年だけの契約だったよね」

『それもそうでしたね』


東京都 渋谷区

私はおじじと一緒にタクシーに乗っていた。


「1年しかいられないって言っていたのは、これが理由だったの?」

おじじが言ってきた。

これ、というのは、この原因不明の頭痛である。


『……そうなんですよ、昔から謎の頭痛持ちで。
でもここ何年かなかったので、様子見で1年のつもりでした」


私は嘘を重ねる。

謎の頭痛持ち。謎ではない。いや、世間一般から見たら謎なのかもしれない。

でも私からしたら何も謎なことはない。


「もう1年、更新してくれて本当にありがとう。
君のチームへの貢献は本当に大きかったよ」

おじじは私に優しく笑った。

私はマスク越しに下唇を噛んだ。


『役に立てて、よかったです』

私もニコと笑った。


タクシーが止まる。


そこは開店前のCRオフィス。


すっと扉が開き、私は車内から出た。


『最後にわがまま言ってごめんなさい』

「全然いいよ、ほしいものがあるんでしょ」


私はなぜかドキドキしながらCRストアに入る。

別におじじからもらってもよかったんだけど、最後ぐらい来てみたかった。

みんなのTシャツにみんなのパネル、今まで関わった同じチームの人たちに囲まれる。


私は小さな階段を登ってレジの前に立ち、
ショーケースに入ったキーホルダーたちを眺めた。


『これとこれください。』

「いうと思ったよ」

『いいじゃないですか』


楽しそうにキーホルダーを包むおじじ。

最後にはい、と紙袋を渡された。


「どうする?下行く?」

『いや、良いです。もう、これでお別れにするんです』

「そう…」

悲しそうな、寂しそうな目で私を見る。

後悔はない?と聞いてきている。


『…このチームが大好きでした。自分を見失わずにいれました。

だからこそ、今、みんなにあったら、我慢できなくなるんです』


大会前にブートキャンプにきているVALORANT部門。

きっとみんなで騒ぎながそれぞれランクでもやってるんだろう。


そんなことを想像して寂しくなって、誤魔化しに暗いスマホを撫でると、
ちょうど通知が来て明るくなった。

ひろと俺はお前の背中を押すよ


…この人

どっからみてたんだよこのっ。


溢れそうな涙を堪えて、私は出口へ歩く。


『1年半、お世話になりました』


これで私、AAの人生は、終わりを迎える。

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mobutyan(プロフ) - 久しぶりにこんなにも感動する小説を読みました。忙しいかとは思いますが更新ずっと待ってます。 (8月17日 3時) (レス) @page34 id: 97fa38bdce (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白くて定期的に読み返しています。続きを楽しみにしています! (2023年3月8日 23時) (レス) @page32 id: 87831ffb52 (このIDを非表示/違反報告)
ayuriayuri112(プロフ) - 続き待ってます!応援してます! (2023年1月11日 5時) (レス) id: 598e63f5be (このIDを非表示/違反報告)
無花果(プロフ) - 続き楽しみです!! (2022年12月30日 23時) (レス) @page25 id: d6d10578eb (このIDを非表示/違反報告)
さや(プロフ) - 続きが楽しみです!!応援してます! (2022年12月28日 12時) (レス) id: 5a62b2ac70 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:baihua | 作成日時:2022年10月22日 22時

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