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意識が戻る頃には、既に大型トラックは目の前を通り過ぎていた。
そこで赤に切り替わる信号で、あの大型トラックが信号無視をしていたことにやっと気づいた。
未だ耳鳴りのする耳の中を、静かな雨音の静寂が優しく流れていく。
呆然として、空間を見つめる私。
そして、右腕を控えめに軽く引っ張られる感覚。それから頭上から落ちてきた声に、私は見上げた。
「……大丈夫か」
曇り空の灰色が少し混ざった、青い目。
それは男で、顔立ちは整っていて、長身で、来ている衣服は学ラン。胸が痛むこの気配。右腕を握り締めた手は、まるで死んでいるかのように冷たい。
私を助けた存在は、あの幽霊だった。
私は顔を歪めて、男から目を背ける。
いつだって幽霊は私を散々な目に遭わせてきた。幼かった私は、自らに霊感があるとは一欠片も思わず、この存在をこの世に存在する人物だと見て友好的に接してきた。
その結果、幽霊たちは私を死へと誘った。
気づいたら崖の側に立っていたり、赤信号の横断歩道を渡ろうとしていたり。水遊びの途中で突然水の中に顔を突っ込まれたこともあって、幽霊は私に危害を与えるものだとしか思っていなかった。
だからこそ霊感なんてクソ食らえだし、それを羨ましがる人も殴りたい気分だった。
だが、この幽霊は何なんだ?
何故私を助けたのだろう。私なんかを助けたって意味はない、それこそこの幽霊にとっては私は赤の他人だ。
ああ、考えれば考えるほど、頭の中がごちゃごちゃになってしまう。
「……あ、りがとう」
無意識のうちに漏れた声は、こちらを見つめる男を十分に驚かせたらしい。
右腕を強く引っ張られ、私は思わず男の顔を見てしまう。
「やっぱりあんた、俺が視えるんだな!?」
「え、へ……?」
突然の言葉に戸惑っていると、腕を離した男は今度は右手をニギニギと握ってくる。もう一度言うが、男の手はかなり冷たい。氷でも直接触っているかのようだ。
冷たさにゾワゾワしながらも、私は何故か男の手を振り払おうとはしなかった。何処までも悪気がなくて、なんの危険も感じないのだ。
「肌にも触れられる……いつ振りだろう。なぁ、俺のこと、視えるんだよな?」
そう希望に満ちた顔をされると、どう返事をしていいものか迷ってしまう。それに初対面のはずの人物によくそんな積極的にくるものだなと思う。
とりあえず、頷いておく。
「う、うん」
すると、男は穏やかな笑みを見せた。
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燕*(プロフ) - ちくわのカルパッチョさん» コメントありがとうございます!あの時はリクにお答えして下さったこと、ご愛読やお気に入りまでして頂いて、心から感謝申し上げます…!お褒めの言葉、とても嬉しいです!これからも当作品を宜しくお願い致します! (2016年1月6日 2時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
ちくわのカルパッチョ(プロフ) - だいぶ前にイラストのリクを承った者ですが、それがきっかけとなりあの時からこの作品をお気に入り登録させていただいています。とても描写が綺麗で繊細でいつも引き込まれます。これからの展開が楽しみです^^ (2016年1月5日 23時) (レス) id: 5e0cf1c1a8 (このIDを非表示/違反報告)
燕*(プロフ) - 伝吉さん» コメントありがとうございます。紹介の件は大丈夫です。まだそこまでネタバレしてはいけない所まではいってもないので← イラスト、楽しみにしておりますね! (2016年1月4日 22時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
伝吉(プロフ) - 近日中にイラストを上げられそうなのでご報告にあがりました。そこで一つ提案なのですが、この小説を私の作品で紹介しても構いませんか?勿論、ネタバレしないように気を付けます。どうでしょうか? (2016年1月4日 21時) (レス) id: bc33d6f617 (このIDを非表示/違反報告)
燕(プロフ) - 伝吉さん» うわああわざわざ読んで下さってありがとうございます!とても励みになります…。これからも日々精進して参ります! (2016年1月1日 0時) (レス) id: f04a1805d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:燕 | 作成日時:2015年7月17日 1時