白のリコリスが咲く8【Harry potter】 (ページ10)

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痛みや苦しみに耐えきれずAが上げた悲鳴にドラコは鼓膜を大きく震わせた。

かつて2人が恋仲であったことをここに居るグリフィンドール生はもちろん、スリザリン生も知っていたが誰もがその事を口にする事はない__ドラコとAが互いを睨み合い__一方が〝磔の呪い〟を掛け、もう一方がそれを受けて苦しむ拷問さながらの光景に、数年前まであったその関係性を思い出すことすらなかったのだ。

「良いぞ、ドラコ__上出来だ。スリザリンに10点」

ようやくアミカスから辞めるように声を掛けられた時には、ほとんどAの意識は無かった。

ドラコは自分のしたことの恐ろしさに吐き気が湧き上がってきたが、アミカスに必要以上の隙は見せたく無かった。

溢れそうになった涙を堪える為にグッと眉を吊り上げ、口を堅く結んだ___アミカスはその姿を見てドラコがAを睨み上げたのだと思い込みニヤニヤと嬉しそうな笑みを見せた。

「正直言ってあの方がこんな小娘に興味を示す意味が解らないな___校内で殺しの許可も出ていれば、こんな奴すぐに仕留めてやるのに」

アミカスが意識を失いかけているAの髪の毛をグイッと乱暴に引っ張り、無理やり彼女の顔を上にあげさせた。

キラリ、とムーンストーンのネックレスとピアスが光っているのが見え、後悔の波が一気に押し寄せてきた。

どこまでも弱く、自分の事しか守れない自分自身が心底嫌だった___あのネビル・ロングボトムですら、彼女を助ける為に立ち上がったのに。

自分にはそれが出来なかった。

忘れん坊で、ドジで、泣き虫で、落ちこぼれのロングボトムはもうここには居ないのだ。

彼は授業終了のベルが鳴った途端、ゆらゆらと立ち上がり、未だに身体の力が入らないAに肩を貸した。

本来は自分が駆け寄り、助け、支えるべきなのに__それを行なっているのは自分が長きに渡って馬鹿にし続けた弱虫だったはずの男だ。

アミカスが機嫌良く立ち去ると、数人のグリフィンドール生が彼等に駆け寄った。

「大丈夫？」

「ネビル、勇敢だったよ__ごめんな、見てるしか出来なくて」

「彼女、酷い傷だわ__すぐに手当をしないと」

友人達に囲まれながらなんとか頷いたロングボトムが、睨み付けるように自分に視線を送ってきたのを感じてドラコは急いで出口へと向かった。

自分の弱さを彼に指摘される事が嫌だった。

指摘されなくても、自分が誰よりも弱いことは痛感したばかりだったのだから。