37:ドロップ ページ38
かまどというものを人生で初めて取り扱った。
目の前にはパチパチと音を立てて燃える薪。
生き物のように揺れ動く火をじっと眺める。
そもそも野外炊飯というものに加わるのが初めてである。
小学校の時も、中学校の時も、林間学校は全てサボったのだから。
時は夏休み。
希望者だけが参加できる勉強合宿。
帝丹高校の2年生が毎年行っているそれは、勉強がメインとはいえこうして少しはイベントもあるのだ。
だとしても…だからこそ、今までの私なら絶対に来なかっただろう。
それでも今回参加したのは、ひとえに蘭ちゃんに誘われたからである。
夜にこっそりみんなで菓子パしようよ、と言われたのだ。頷くしかない。お菓子食べたい。
同じ部屋には蘭ちゃんの他に鈴木さんと世良さん。
野外炊飯のグループも同じメンバーだ。
料理なんてできない私は必然的にかまど係。
工藤に「蘭のカレーはめちゃくちゃうまいぞ」と誇らしげに言われた時は若干イラッときたので頬をつねってやった。
でもきっと、カレーの方は本当に美味しいものができあがるだろう。
となれば、私はご飯の方をしっかり見張っておかなければ。
火が弱まってきたので端にある木片を移動させる。
その時、急に横から手首を掴まれた。
「ダメだよ、ちゃんと軍手をしないと」
『え?あ…ありがと…』
私に軍手を差し出してくれたのは、同じくかまど係の世良さん。
工藤と同じく高校生探偵をしているらしい。喋るのは多分、今日が初めてだ。
なんにせよ、彼女が一緒ならご飯を焦がしてしまうこともなさそうだなと密かに考える。
そんな時、ポケットに入れていた携帯が小刻みに震えた。
メール…恐らく降谷さんからだ。
周りに先生がいないことを確認してから盗み見れば、数名の男の名前と「調べといて」の五文字。
…あの人、私が合宿中なのわかってんのかなぁ。
仕事は相変わらずブラック企業並の頻度で頼まれる。
私が告白したことなんてまるでなかったかのようにいつも通り。
そう望んだのは他ならぬ私だ。降谷さんはその通りにしてくれてる。
わかりました、と返信して携帯を仕舞う。
すると、世良さんが薪をつつきながら私を見た。
「髪、切ったんだね」
『え?』
「なにかあったのかい?」
『…別に、ちょっとすっきりしたくて』
「へえ、そっか」
…工藤も降谷さんもそうだけど、探偵って時々よくわかんないことを気にする。
そろそろお腹が空いたな、と思いながら火を見つめた。
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紅个 - 面白いです! 頑張ってください。 (7月18日 9時) (レス) @page2 id: 5d6bcaafb9 (このIDを非表示/違反報告)
紅狐 - ◎ (7月18日 9時) (レス) @page2 id: 5d6bcaafb9 (このIDを非表示/違反報告)
紅湖 - 面白い (7月18日 9時) (レス) @page2 id: 5d6bcaafb9 (このIDを非表示/違反報告)
カルビ(プロフ) - はい!降谷さん格好よく書けてます!!大好きです!!良かったらボードで話しませんか?降谷さん語りましょう!! (2019年4月8日 16時) (レス) id: 36c4c5cb96 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 1さん» ありがとうございますー!続編でも頑張りますね!よろしくお願いします! (2019年4月5日 21時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2019年3月3日 21時