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降谷side


Aが攫われた夜から1週間。

今日も今日とてポアロのカウンターでアイスコーヒーを飲んでいるのはコナンくん。

彼があの日以降Aの話を振ってくることはなかった。

だけど、なんていうか…


「…コナンくん」

「なに?」

「いや…あれからAに会った?」

「心配なら自分で行けばいいじゃん」


冷たいのである。明らかに。

自分で行けるなら行ってるさ…

微妙な笑いを返してお皿を片付けた。


正直に言うと、どうすればいいのかわからないのだ。

これまで通り協力してもらっていいのだろうか。

でもAはもう俺の顔なんて見たくないかもしれない。

振った俺がそう易々と顔を出せるわけもなくて、連絡を取れずにいる。


けれど、そんな考えは今日をもって打ち砕かれることになった。

ドアの鈴がカランとなる。

いらっしゃいませ、という固定のセリフは、途中で切れた。

扉の前にはずっと思い浮かべていた人。

彼女は少し恥ずかしそうな微笑みを浮かべて言った。


『…こんにちは』


長かったAの黒髪は、肩の上までバッサリ切られていた。

思わず言葉をなくして目を見開いた。

それはコナンくんも同じで、日の光が差し込むポアロから音が消える。

彼女は一瞬ためらうように足元を見てから、カウンターの方へ歩いてきた。


『コーヒー頂けますか』

「…え?あ、はい」


ハッとして彼女から視線を外す。

コーヒー…?Aは甘党でコーヒーは苦手だったはずだ。

コナンくんは未だにAのことを凝視している。

唯一いた他のお客さんが店を出ていき、この場には3人だけになった。

Aは出されたコーヒーを一口飲み、少しだけ顔を顰めてミルクを入れる。

やがてコーヒーカップは空になる。

彼女は一息ついてから席を立ち、俺をまっすぐに見た。


『…忘れてくれませんか』

「え…?」

『あの日、私が言ったことです。
なかったことにしてくれませんか』

「………」

『困らせてしまってごめんなさい。
あなたは何も気にしないでください。
全部なかったことにして、また今まで通りあなたに協力させてください』


切り揃えられた髪が揺れる。

Aは背筋を伸ばして小さく笑った。


『コーヒー、美味しかったです。ありがとうございました』


その言葉を最後に代金を置いて店を出ていく。

ドアが閉まるまで、俺は何も言えなかった。


「……安室さん」


コナンくんの責めるような声が耳に届く。

…どうしろっていうんだ。

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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紅个 - 面白いです! 頑張ってください。 (7月18日 9時) (レス) @page2 id: 5d6bcaafb9 (このIDを非表示/違反報告)
紅狐 - ◎ (7月18日 9時) (レス) @page2 id: 5d6bcaafb9 (このIDを非表示/違反報告)
紅湖 - 面白い (7月18日 9時) (レス) @page2 id: 5d6bcaafb9 (このIDを非表示/違反報告)
カルビ(プロフ) - はい!降谷さん格好よく書けてます!!大好きです!!良かったらボードで話しませんか?降谷さん語りましょう!! (2019年4月8日 16時) (レス) id: 36c4c5cb96 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 1さん» ありがとうございますー!続編でも頑張りますね!よろしくお願いします! (2019年4月5日 21時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2019年3月3日 21時

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