067：ラベンダー ページ22
降谷side
組織壊滅作戦前日。
俺は曇った空の下、とあるビルの屋上にいた。
壁の一部分には染み付いた赤黒い汚れ。──ヒロの血だ。
血痕のすぐ横に座り、壁に背を預ける。
そしてそのまま目を瞑った。
カン、カン、カン、と規則的な足音がする。
あいつが階段を上ってくる音がはっきりと聞こえる。
…あぁ、本当に、よく響く。
足音が止まった。
息を飲んだのがわかった。
そのままこっちに近づいてくる音が聞こえる。
俺の前にしゃがんで、そして初めて声が聞こえた。
『悪趣味』
Aは冷たい声でそう言った。
『こんな場所に呼び出してそんなことして待ってるだなんて、嫌がらせですか？』
その言葉を受けて、ゆっくりと目を開ける。
彼女はきつく俺を睨んでいた。
｢…別にそんなつもりはない｣
『……どうでもいいですけど、何の用ですか？
こんなところで油売ってる暇はないはずでしょう』
鋭い視線を感じながら立ち上がる。
Aの方も警戒するように腰を上げた。
｢言わなければいけないことがあるんだ｣
『……』
｢まだ、言ってないことがある｣
あの夜のことについて。
そう言った瞬間、Aは目を見開いた。
その話はしたくないと言いたげに一歩下がる。
『なんのことですか』
｢…本当は気づいてたんだ。
ずっと目を背けていただけで、わかっていた｣
あの日、ヒロが心臓を撃ち抜くまでの流れはAも聞いているはずだ。
それでも彼女はあの時あの場にいなかった。まだ知らないことがある。
｢ヒロが死んだのは俺のせいだ｣
『は…？』
｢最後の引き金を引いたのは俺だ｣
Aの表情が一瞬にして凍りついた。
アクアマリンの雫がかすかに揺れる。
小さく息をつぎ、心を落ち着かせて続けた。
｢あの日、赤井はきっとヒロを逃がそうとしていた。
ヒロの自決を止めようとしていた。
けれどそのタイミングで、俺は足音を消さずに階段を駆け上った｣
『……』
｢…よく響く階段だったろ。
当然ヒロは組織の人間が来たと思っただろうな｣
本当に、こんな簡単なことに何年も気づいてないふりをしてただなんて。
逃げていた。ずっと、なにもかもから逃げて、蓋をして、見ないようにして、先延ばしにしていた。
｢A｣
俺の声に、呆然としていたAの肩がビクリと揺れる。
彼女は怯えるように耳を塞いだ。
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びびか(プロフ) - この作品の作り込みが凄すぎて本当に好きです。。素敵な作品に出会えて良かったです！ありがとうございました！ (2023年3月27日 20時) (
レス) @page32 id: b527a1d6e3 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 想像するだけでこっちが照れてくる (2021年12月7日 15時) (レス) @page30 id: 9e519c38d5 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ほぉ…これが降谷さんとの至高の領域だな？？？ちょっと最上級の語彙力調達してきますね？手持ちの語彙じゃこの素晴らしさは語れないので！！！！ (2021年4月30日 23時) (レス) id: 6e0ab3a00d (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - あむむさん» 完結してからしばらく経ってるのに見つけてくれてありがとうございます…！！そんなに褒めて頂けるなんて嬉しすぎて私の心臓が取れます…！25機も消失してご無事ですか！？笑 最後まで読んで下さりありがとうございました！！ (2018年11月9日 17時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
あむむ - 初めまして。どうにもこうにも我慢出来なくてコメント失礼します！泣きましたキュンキュンしました心臓取れました辛すぎましたその文章力に脱帽しました！25機くらいは消滅しました…！完結おめでとうございます。お疲れ様でした！ (2018年11月8日 21時) (レス) id: eaf01be664 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：立夏
| 作成日時：2018年9月21日 21時
