顔が良ければ全て良しだと思うなよ！！ ２【降谷零/安室透】

064：ベルフラワー ページ19

Aside


月の出ていない夜だった。

それでも星々が気味の悪いくらい輝いていて、その明かりだけでも十分辺りは見えただろう。

きっと、彼の目にははっきりとあの人の遺体が映ってしまったことだろう。


景光さんはとても優しい人だった。

しょっちゅう子供みたいな口喧嘩をする私と降谷さんの間に入ってくれることも多かった。

毎度の如く降谷さんにしばき倒される私にこっそりコーラを奢ってくれることだってあった。

降谷さんも景光さんのことは心から信頼してると、傍から見ていてすぐにわかった。


優しくて、朗らかで、強くて、優秀で。

そんな彼を殺してしまったのは私だった。


気づいた時にはもう遅かった。

今更後悔したって取り戻せるわけがない。


｢ヒロが死んだ｣

あの夜、降谷さんからの電話はその短い１文で切れた。



降谷さんは私に何も言わなかった。

責めなかったし、恨みもしなかった。


言ってくれたらよかったのに。

ヒロを殺したのはお前だって。

そうしてくれた方が私は楽だったのに。


誰も私を責めないなら、私が私を責めるしかないじゃないですか。



耐えきれるはずがなかった。

私はそんなに強くなかった。

降谷さんの大事な人を奪ってしまった。

私のミスで１つの命が撃ち抜かれた。

合わせる顔もない。

その場で居座り続けるなんて出来るはずがなかった。

自分に公安警察であり続ける資格なんて、あるはずもなかった。



その日、私は公安警察をやめた。

私が辞表を提出した時、降谷さんは目を見開いたまま固まった。


『最後まで迷惑ばかりでごめんなさい。
今までお世話になりました』

｢…は？｣


絞り出した最後の言葉は多分、かすれてしまっていた。

それでもなんとか言い切って、通い慣れた本庁をあとにする。

降谷さんが後ろでなにか叫んでいたのはわかっていたけれど、振り返る気はなかった。

もう二度と来ることはない。


外はやっぱりというか、雨が降っていた。

降谷さんと一緒にいたせいで私まで雨に好かれちゃったかな、とぼんやり考える。

その日は私も傘を差さずに歩いた。

嫌なことがあったら雨に打たれたがる彼の気持ちが少しわかった気がした。


…あぁ、そっか。今の私、あの時の降谷さんにそっくりじゃん。

なんとか彼を繋ぎ止めたってのに今度は私が逃げるだなんて滑稽な話だ。

そうして日比谷公園に入った時、私を追いかけてきた彼に右手を強く引かれた。

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