46話 ページ3
「Aさんはどこですか」
かろうじて安室透の口調は崩さずに済んだが、かなり低い声が出た。
しかし遊佐伊織は全く臆することなくひょうひょうと答える。
「そこまでわかってるんですか?すごいですね」
「質問に答えてください」
「大丈夫、Aちゃんは無事ですよ」
「…じゃあ、報告とは?」
話しながらRX-7を静かに発進させ、地下駐車場を出た。
朝から降り止まない雨が車に当たって音を立てる。
しかし続けて放たれた彼の言葉は、それらの音を全て消し去るには十分すぎた。
「Aちゃんのこと、僕が貰ってしまおうと思いまして」
「…………は?」
「Aちゃんは僕のお嫁さんにしますから」
…………嫁?は?Aが?こいつの?
予想の斜め上すぎる発言に思考がストップしかけた。
え?結婚?どういうことだよ、Aがこんなやつと結婚?
視界が回る。
さっきの言葉が何度も頭でグルグルする。
そんなとき。俺の混乱を、聞き慣れた叫び声が打ち破った。
『誰が結婚なんかするかバーーーーーカ!!!!』
「え」
「え?」
間違いなくAの声だ。
あまりの大声に携帯を耳から離しそうになった。
いきなりのことに遊佐伊織の方も驚いているようで、会話が止まる。
『寝ぼけたこと言ってんじゃねえよクズが!!
私が好きだから攫ってきて無理やり結婚とか平安時代か!?ワガママも大概にしろ世間知らず!!』
「え、ちょ、ちょっとAちゃん!?」
思わずポカンとしていたが、すぐにハッと意識を取り戻した。
なんだこいつ、まだまだ元気そうじゃねえか。
とりあえずその事実に安心しつつ、耳を凝らす。
これはメッセージだ。
散々叫んでくれてるおかげで色々とわかりやすくなった。
バカだな、Aの口も塞がず隣で電話とは。
電話の向こうは未だに凄まじい罵倒の嵐。放送禁止レベル暴言の数々に若干同情するレベル。
怒鳴り声の響き的に狭い部屋じゃない。
ガレージのような響きやすいところでもない。
さっきからAが地団駄を踏んでいるようだが、音を聞く限り床はカーペット。
移動時間を考えても大方見当がついた。
と、また向こうから声が飛んでくる。
『自分が望めばなんでも手に入るとか思ってんじゃねえぞ!このお家大好きお坊ちゃまが!!!』
……こいつほぼ答え言いやがった。
了解、遊佐邸ね。
場所ならわかる。俺はアクセルをめいっぱい踏み込んで首都高に乗り込んだ。
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ひなた(プロフ) - 読ませていただきました!初めてゴリラを好きになれた作品なので感謝しております!そして、少し気になったのが、「緑川」というキャラでおそらく諸伏くんの声優さんと名前がごっちゃになってしまい諸伏くんを緑川と書いたものだと思いますがそこが少し気になりました。 (2022年4月30日 21時) (レス) id: dd9bdc737b (このIDを非表示/違反報告)
りーくん - 待って最後の宣伝のやつ二つとも知ってんだけどwwww (2021年9月1日 21時) (レス) id: 6d65fc1765 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 椎名桃乃さん» わー!ありがとうございます…!そんなそんなもったいないお言葉ばかりですがとっても嬉しいです!見つけてくださってありがとうございました!どうぞお暇潰しにでもゆるりと読んで頂けたらと思います!笑 ありがとうございました! (2019年5月26日 18時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
椎名桃乃 - 狂犬ちゃんを読んでぼろっぼろに泣いて、それから此方の作品を見付けて、いい話だなーとほっこりさせて頂きました!立夏さんは文才力が半端ないですね…!他の作品も読んでみたいと思います! (2019年5月24日 21時) (レス) id: 87ecca1cfc (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ウィンディ-lilac-さん» わぁぁありがとうございます!!とっくに完結した作品なのに見つけて下さって感謝しかありません…!本作は初めて書いた降谷夢なのでとても嬉しいです!狂犬の方まで本当にありがとうございます!これからもいっぱい文字書きますね!! (2018年8月27日 20時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年6月10日 21時