可愛くないキミの落とし方【降谷零/安室透】

44話 ページ49

『じゃあ、私がこの縁談を潰しても文句はないですね？』


白石と遊佐両家が結婚したがっていたら回避するのは中々大変だ。

これ以上白石家の怒りは買いたくない。

しかし遊佐側だけなら、なんとかなる。


｢…どういうことだ？｣

『だから、この話がなかったことになっても、別に構いませんよね？』


少しの間が置かれる。

父親。とも思いたくない相手は、私の言葉に小さく嘆息してから答えた。



｢もちろんだ。好きにしろ｣

『どうも。あ、それともう１つ。
私が警察になったこと、伊織くんに言いました？』

｢ああ、随分前に問い詰められて答えたな。
お前まだ警察なんぞやってるのか？｣


後半のセリフにはカチンと来たが、華麗にスルーする。

やっぱりそうか…じゃあ彼、今回私のことを調べて知ったわけではないのね


『…わかりました。
そうだ、遊佐グループの株、売っぱらっといた方がいいですよ』

｢はぁ？｣

『以上です。さようなら』


無理やり話を切り上げる。

手を縛られていてこちらからは通話を切れないが、やがて向こうが躊躇いがちに切った。

そして少ししてから、また扉が開いた。

３分たったらしい。



｢やあ、終わったかい？｣

『ええ、ありがと』

｢諦める気になった？｣

『……』



やけに素直に引き受けると思ったけど、やっぱそれが狙いかよ。

残念ながら白石家は私を説得しようとはしなかったぞ。

むしろ破談大賛成って感じだぞ。

ここでそれを伝えたらちょっと面白いことになりそうだが、まぁそれはよしておこう。


黙った私の目を、伊織くんはしばらく見つめる。

そしてふふ、と可笑しそうに笑った。



｢まだ全然諦めてないね｣

『当然でしょ』

｢君のそういうとこが好きだよ。
ま、それでもいずれ折れてもらうけどね｣



そう言いながら伊織くんはスマホで新たに別の番号を打ち始めた。

咄嗟に音を聞いて番号を覚える。

…あれ？この番号、もしかして…



『…ねぇ、今から電話しようとしてるのってまさか』

｢うん、そうだよ。
君の元ダーリン…ではないんだっけ？
一応僕がAちゃんをもらいますって言おうと思って。
声も借りたしね｣


だからなんで私が結婚すること前提で話を進めるんだよこの野郎。

でも占めた。これはチャンスだ。

零が組織の任務を終わらしていることに賭けよう。

外部と連絡を取るならこのタイミングしかない。

伊織くんが通話ボタンを押した瞬間、私はすぅ…と息を吸いこんだ。

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