可愛くないキミの落とし方【降谷零/安室透】

37話 ページ42

コナンside



『私たちっていつ死んでもおかしくない職業でしょう？
実際、同期の中にも殉職した仲間たちはいる』

｢………｣

『特に零なんて、組織に潜入調査してるのよ。
時々、どうしても怖くなるの』


言いながら、Aさんは静かに目を伏せる。

それを俺は黙って聞くことしか出来なくて。



『こっちがいちいち噛み付いてないと、いつか零が消えちゃう気がして…』



膝の上の手がギュッと握られた。

…そりゃそうだ。

死と隣り合わせの仕事だ。怖くないわけがない。

きっとこんなこと、職場では言えないだろう。

思いがけなく聞いてしまった本音を、自分の中で噛み締める。



『ごめん、やっぱり言うべきじゃなかったね。忘れて？』

｢…ううん｣


暗くなった雰囲気を飛ばすように、彼女はニッコリと笑った。

無理しなくてもいいのにな、と思ったが、こっちは小学生だ。そりゃ気も使うだろう。




｢…Aさんってさ、安室さんのこと好きなの？｣



その質問は自然と口から出ていた。

言ったあとで、なにも今聞くことはなかっただろうと後悔する。

しかしAさんはそれを受けて、ちょっと目を見開いてからまた笑った。



『あはは、出た出た。
若い子はすぐ恋愛に結びつけるわよね』


もうちょっと動揺くらいするかな、と思っていたが、案外そうでもない。

彼女はそのままサラリと続ける。



『恋とか愛とか、そんなんじゃないわよ』


言い切ったAさんに、内心びっくりしていた。

へぇ…無自覚なのか取り繕ってるのか…

どっちかはわからないけど、済まし顔の彼女の視線は少しうろついている。

…やっぱりちょっとは動揺しているみたいだ。



｢でもAさん、安室さんのこと大好きだよね？｣


あえて子供っぽく、今度は恋愛の意味を込めずに“好き”という言葉を使った。

それはAさんにもちゃんと伝わったようで、彼女の眉がきゅっと寄った。

目を逸らして口を尖らせる。

そしてしばらく間を開けて、やがてぶっきらぼうにその言葉を放った。


『そーね』



彼女なりに照れてるのが伝わってきて、なんだかこっちまで恥ずかしくなる。

しかし彼女はさらにそこに一言付け加えた。


『世界で１番大切な人、かな』



…………この二人、なんで付き合ってないんだ？

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