可愛くないキミの落とし方【降谷零/安室透】

34話 ▽Coffee ページ39

小鳥のさえずりで目が覚めた。

こんなこといつぶりだろう…毎日携帯の目覚ましの爆音に叩き起されてたからなぁ…

小さく伸びをして布団の中から這い出し、洗面所に続く扉を開ける。

そして開けてびっくり。

なんとそこには上半身裸の零がいた。



｢あ、おはよ｣

『…………おはよ』


驚きこそすれ叫ぶような可愛らしい反応ができる年でもない。

しかし流石に目線のやり場には困るので、スッと目を逸らして隣で顔を洗う。


そこでふと、なんとなく零の雰囲気がいつもと違うことに気がついた。

怒っているわけではないみたいだけど、なんかピリピリしてるというか…

…あ、わかった。これは集中してる時の零だ。


『今日は組織の？』

｢ああ｣


短く答えた零にそっか、と返す。

多分今日のは危険な任務なんだろう。

だったらあんまり話しかけない方がいいかと横をすり抜けて洗面所を出た。



ポットの電源を入れて机の上にあった新聞を手に取る。

国会がどうとかいう記事を適当に読み飛ばしてパラパラと捲る。

すると、急に見知った名が目に飛び込んできた。


『遊佐…』


記事は、遊佐グループの社長が急死したと伝えていた。

伊織くんのお父さん…亡くなったのか……

何度か会ったことはあるが、威厳のある偉大な人だった。

原因については載っていないが、これに伴い息子が跡を継ぐことになったらしい。


…ってことは伊織くんじゃん！？

え、すごい！まだ若いのに！伊織くん遊佐グループのトップになるの！？


えぇぇぇぇと声には出さずに心の中で叫びながら、新聞を凝視する。

と、玄関でカタンと音が鳴った。

見れば、零が支度を終えて家を出るところだった。



『あ、零ちょっと待って！』

｢ん？｣


バーボンの格好をしている彼は、ドアノブに手をかけたまま振り返った。

慌てて席を立って買い溜めてる缶コーヒーを握り、零に投げる。

しっかりキャッチされたのを見届けて、ちょっと躊躇ってから口を開いた。



『……頑張ってね』

｢…ん、ありがと。いってくる｣

『いってらっしゃい』


パタンと閉まった扉を見つめる。

しばらくそのまま固まっていたら、不意に外から音が聞こえてきた。

窓を見ると、いつの間にか雨が降り始めていた。


『……なんか嫌な天気だなぁ』


そう小さく呟く。

薄暗い室内は、なんだか酷く居心地が悪かった。

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