可愛くないキミの落とし方【降谷零/安室透】

29話 ページ30

カツカツとハイヒールを鳴らしながら重たい足を無理矢理前へと踏み出させる。


『家帰りたくねえ………』


ほんと帰りたくねえ。

帰ったら零がいるのだ。

キャバクラを出るとき何故か鬼の形相でこっちを見てた、零が、いるのだ。


なんであんなに怒ってたんだあいつ…

理由はわからないけど、絶対にまだ機嫌は直っていないだろう。

そうこうしているうちについに零の部屋の前まで着いてしまい、ゴクッと唾を飲み込む。

閻魔大王へ続く扉に見えてきた…やだ本当やだ…


ふぅ…と息を吐いて合鍵を差し込んだ。

観念しよう。いつまでもここにいるわけにいかないんだし。

そう思ってそうっとドアを開けた。



『ただいま…』

｢おかえり｣


間髪入れずに返ってきた声はやっぱり低い。

まぁでも返事してくれただけいいか。

そのまま靴を脱いで、零がいるところまで向かう。

すると、零があからさまに顔を顰めた。


｢酒臭いしタバコ臭い｣

『普段香水の匂い撒き散らしてる人に言われたくないんだけど』


ていうか同じ場所にいたんだからお前も似たようなもんだろ。


『で、なに拗ねてんのよ』

｢拗ねてねえよ｣

『拗ねてるじゃん』


お決まりの言葉をいえば、眉間のシワが更に濃くなる。

ここまで目付きが酷かったらせっかく垂れ目も垂れてくれない。

これのどこがハニーフェイスだ。めっちゃビターだ。


なんて考えながら鞄を置く。

と、そこでようやく気がついた。

もしかしてあれじゃない？潜入調査のこと黙ってたのが良くなかったんじゃない？

そうでしょ、絶対そうだ。

なら話は早い。だって黙ってたのは風見さんの命令だ。



『零、あそこにいたのは潜入調査で』

｢知ってる、さっき風見に聞いた｣

『…黙ってたのは私の意志じゃなくて』

｢知ってるよ、風見だろ｣


『あんたなんで怒ってるのよ！！！！』



これじゃないのかよ！！！

いい加減めんどくさい！もう限界だ！！

しかし膨れっ面の零は往生際悪く続ける。


｢怒ってねえし｣

『もういいわよそれ！！』


思わず叫んだが、零も零で引かない。

やっぱり負けず嫌いはお互い様。


｢大体、お前男慣れしてないくせにあんなとこで働けるのかよ｣

『はぁ？バカにしないでくれる？大丈夫に決まってるでしょ』

｢へえ、言ったな？｣


瞬間、綺麗な蒼の瞳が怪しく光った。

そのせいで一瞬言葉に詰まってしまい、その少しの間が命取り。

気づけば至近距離に零の顔があった。

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