不器用な王様 ページ29
そのから話は淡々と進んだ。
じゃあ、決まりだな。と不敵な笑みを零しながら言う彼は、あたしに1束の楽譜を手渡してきた。
「この曲、お前らにやるよ。今回のジャッジメントで使えばいい。改良するのもいいし、使わないで捨てても構わない!」
捨てても構わない、と笑顔で言う王様は綺麗に保管された楽譜をあたしの手の上にポンっと置いた。
もちろん、捨てる気などない。
改良はさせてもらうつもりだけど、彼の作った曲をみんなに歌って欲しい、という欲がなぜか強かった。
それで、と話を続けようとする王様にあたしは視線を戻す。
「さっきも言った通り、お前らが負けたらKnightsは解散させる。でも、お前らが勝ったら…そこのお前の望み、なんでも聞きいれてやるよ☆」
語尾にめいっぱいの星を散りばめ、無邪気に笑う彼はまた床の紙とにらめっこを始める。
そこのお前、とは言わずもがなあたしである。
王様は注意したにも関わらず、名前では呼んでくれないことに腹を立てた末っ子すーちゃんはくぁぁ!と頭を抱えた。
勝った時の、望みにこれも組み込んでおこう。
負けるつもりなど一切ない。
ご丁寧にクリップで束ねられた楽譜をペラペラとめくれば、あたしはクスッと笑う。
それに気づいた凛月くんはあたしを後ろから抱きしめてきた。
「なぁ〜に、A。俺たちのことを放っておいて、1人だけ楽しい思いをしてるの〜?」
気だるげな声の主はいつにも増してあたしに甘えてきた。
先程の大喧嘩であたしが傷ついてしまったのではないか、と心配してくれているらしい。
そんな優しい騎士に、あたしは目の前で紙をまき散らす彼に気づかれないようにそっと言葉をこぼす。
『別に特に面白いことがあったわけじゃないよ。ただ、この人も何だかんだ言って、Knightsが大好きなんじゃない♪』
口にしてしまえば余計に矛盾している彼にどこか微笑ましくなってしまう感情を覚えた。
彼はこーゆーところが不器用なのか、と勝手に解釈してしまう。
泉さんは素直になれないツンデレ騎士だけど、この人はさらに面倒なタチの悪い不器用な王様だということに、あたしは気づいてしまった。
そして、頭に浮かんだもうひとつの望み。
それはあたしを「確実に勝ってやる」というモチベーションに変わった。
時計を見れば完全下校の五分前。
床に張り付く王様を引っ張ってあたし達はセナハウスを後にする。
王様から貰った、大事な楽譜を両腕で包み込んで。
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さりな(プロフ) - パスワード教えて下さりますか? (2019年9月7日 21時) (レス) id: d6387d6472 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さゆな x他1人 | 作成日時:2019年6月1日 13時